第114話 男の家に泊る女は(詩織1泊目)
詩織は実家に連絡を入れた後、俺の勧めでシャワーを浴びることになった。
俺は詩織がシャワーを浴びている間に、布団を2枚敷いて寝る支度を整える。
支度を終えると、洗面所から、シャワーを終えた詩織が、髪をドライヤーで乾かす音が聞こえてきた。
しばらくして、ドライヤーの音が鳴り止み、詩織が部屋の方へと戻ってきた。
「ごめんねシャワーまで借りて、寝巻きまで用意してもらっちゃって」
「俺のサイズでデカくて申し訳ないけど……」
「お、布団敷いてあんじゃん! 気が利く! ま、私は結構ダボダボの方が寝やすいから気にしないよ!」
詩織は、俺の脇腹をツンツンとつつきながら、テンション高めにそう言ってきた。
「詩織は奥の布団な、俺はこっちで寝るから」
「おっけーい」
詩織は俺の言う通りに、奥の布団の方に座り込んだ。
セミロングの黒髪を手櫛でほぐしながら、バックから手鏡を取りだして、髪の毛の調子を確認する。
お風呂上りのスッピン姿の詩織は、いつも見ている詩織とは違い、やはりどこか垢抜けた感じがあった。にしても何故だろう? 萌絵や綾香と違って、全然ときめかないぞ!?
すると、じぃっと見られていたのが気になったのか、頬を少し染めながら詩織が恥ずかしそうに身をよじる。
「その……そんなにじぃっと見られると困るんだけど」
「あぁ、悪い」
何故だろう?? 恥じらっているのに全くきゅんとしない。
やはり俺は、詩織に対しては何の感情も抱かないようだ。そんな感覚を覚えつつ、先に布団へと入った。
「よしっ! 私も寝よっと!」
詩織も手鏡を机に放り投げて、隣の布団に寝っ転がり、毛布を身体に掛けた。
「明日何時に起きる?」
「うーん、休みだしなぁ。大地はなんか予定ある?」
「午後からあるけど、それまでは平気」
「じゃあ、8時くらいでいいや」
「了解」
俺は目覚ましを8時にセットして、枕元に置いた。
「電気消すぞ」
「はーい」
詩織が反対側を向きながら手を挙げて合図してくる。俺はピっと消灯ボタンを押して、部屋の明かりを消して寝る体制を整えた。
真っ暗の部屋の中に静寂が訪れ、先ほどまで気が付かなかった雨の音がうっすらと聞こえてくる。
にしても、まさか詩織を部屋に泊めることになるとは、夢にも思ってなかったぜ……俺が天井を眺めながらそんなことを考えていると、寝がえりを打った詩織がこちらを向いて話しかけてきた。
「ねぇ大地」
「ん、なんだ?」
「今日はサンキューね」
「おう、別にいいって」
答えると、詩織はからかうように言ってくる。
「お礼に何かしてあげよっか?」
「いらない」
「えー本当に?」
「本当に」
「ぶ~」
暗闇の中でも頬を膨らませて不満そうな表情をしている姿が目に浮かぶ。
「なんだよ、逆に何かしてくれって言った方がいいわけ?」
俺が寝返りを打ち、苦い表情を浮かべながら詩織の方を向いて尋ねると、詩織はムスっとした口調で言った。
「そりゃそうだよ! 男と女が一つ屋根の下で寝てるんだよ!? そこは、『お礼に詩織の身体で俺にご奉仕してくれないか?』くらい言わないとダメっしょ!」
「ブッ!」
俺は思わず吹き出してしまった。いやっ、ホント何言ってんのコイツ?
欲求不満なの?
「ちょ……なんで噴き出すし!」
「いやっ、そんなこと言うわけないだろ!」
「えぇ! なんで!?」
「当たり前だ、男女が一つ屋根の下で寝てたとしても、急に友達に身体の関係求めるかっつーの。健太じゃあるまいし」
「むぅ……」
詩織は俺の返答に納得が言っていないらしく、不機嫌そうな声で唸っていた。
「じゃあさ…」
スルスルっと毛布を剥がす音が聞こえたかと思えば、詩織が俺の方へと四つん這いで近づいてきた。詩織の方を見ると、恥ずかしそうな表情を浮かべながらチラっと横目で俺のことを見つめてきている。
「これでも、私の身体欲しくならない?」
詩織は俺の貸したグレーのジャージの寝巻きの首元をズっと下げて、チラっと谷間を見せつけてくる。
綺麗な鎖骨が露わになり、実に日本人の平均的なバストサイズをした詩織のプクっと膨らんだ胸と、紺色のブラが見えた。
しかし、何故だろう、優衣さんや愛梨さんに比べて、色仕掛けされているにもかかわらず、俺は全くムラっとしなかった。
「ならないね。ってか……」
俺はじとっとした目線で詩織を睨みつけた。
「お前、実はそうやって他の奴にもヒョイヒョイこんなことしてんじゃねーだろうな?」
「し……失礼な! ちゃんと人はわきまえるし!」
俺が訝しむ目で睨み続けていると、納得の行かない詩織がいきなり俺の毛布を剥いできた。
「とりゃ!」
「お、おい!」
詩織はそのまま俺の布団に侵入してくる。そして、ベタっと腕に巻き付き、上半身をわざとくっつけてきた。そして、もう一方の手で俺の下腹部をまさぐるように触ってくる。
「あっ、本当だ。大きくない」
どうやら俺の言ったことが信じられなかったらしく、直接確認しに来たらしい。なんて変態だ全く。さっきまで、男に襲われそうだからかくまってくれと言っていた奴だとは到底思えない。
「だから言ったろ、別に興奮してないって」
「そっか……ちぇ~つまんないの」
俺が詩織に迫られて興奮してないことが分かると、詩織は冷めたように俺から離れて、大人しく自分の布団へと戻っていった。
「ちょっとでも興奮すらしてくれなくて、ちょっとショックだし」
「悪かったな。ってか、普通そんなことするわけないだろ」
「いや、普通するっしょ!? 女が男の部屋に泊まるってなったら、普通一回や二回セックスするのは当たり前っしょ!!」
「いや、その考え方はどう考えてもおかしいだろ! しかもお前、さっき襲われそうになった身だぞ!?」
こいつの考え方が分からない。偏見がありすぎる。そうしたら、全国で何人の男女が夜の行いを繰り広げなきゃいけないことやら……
「いやいや、女の子だって男の部屋に泊まるってなったら、エッチしたくない人の部屋には絶対に泊まらないもん!」
「そうなの?」
「そうだって! だから、私は大地となら別に、襲われても仕方ないかな……って思ってるよ……?」
毛布を首元まで被り、少し身体を縮こませながら恥ずかしそうに言ってきた詩織を見て、俺は少し胸が熱くなるのを感じた。だってね、エッチしてもいいよって、OKされてるようなもんですからね……流石にさっきまで興奮してなかったものも、ちょっとは反応しちゃいますよそりゃ……
俺は誤魔化すように、適当に言葉を返す。
「いやっ、でも例え詩織がそうだったとしても、他の女の子は分からないだろ……」
「いーや、絶対にあるね! 女の子は、セックスしてもいい男子の部屋以外には絶対に泊まらないね! これ常識だから!」
「そ、そうか??」
自分の論を強く主張する詩織に、俺は少し圧倒されてしまうが、納得はしていなかった。何故なら、もし詩織の考えが正しいのならば、俺は今現在詩織を含め約7人の女の子と、いつでもセックスOKな状態になってしまうから……いや、まさかな?
俺が冷や汗を掻いていると、詩織がニマニマした様子でこちらを見てきた。
「あらら? もしかして、自覚症状あり?」
「そんなわ……け……」
否定しようとしたが、綾香とのラブホテルでの出来事がふと脳裏に浮かんでしまう。一時の血迷いだとはいえ、トロンとした表情で俺を誘惑してきたのは間違いない事実。
詩織の論が、正しいのではないかと思えてきてしまう……
「もしかして、綾香っち??」
「はっ!? えっ!?」
突如頭の中で考えていた人の名前を呼ばれ、つい素っ頓狂な声を出してしまった。
「え、マジ!? 綾香っちとヤったの!?」
俺の動揺を見て、詩織が驚いたように起き上がる。
「いやっ、違うから!! 本当に何もないから!!」
「本当にぃ?? 怪しいなぁ~」
詩織は俺の動揺っぷりを見て、訝しむ目線で見つめてきた。俺は居心地が悪くなり、クルっと寝がえりを打った。
「とにかく、詩織とセックスしたいとか思ったことはないから! それだけ、以上!」
「はいはい、分かったってば。大地にはもう、心の中にセックスするのを決めてる女の子が他にいるってことね」
「いや、だからっ」
「おやすみ~」
顔だけを向けると、手をヒラヒラと振りながら反対側を向いて、詩織が納得したように寝っ転がり、眠りについてしまった。
「はぁ……」
詩織がこれ以上話を聞く意思が無いことを俺は悟り、反論するのも面倒くさくなったので、ため息をつきながら再び頭を枕におろした。
そして、先ほど言っていた詩織の論に照らし合わせて、俺の家に寝泊りしている女性を考える。
まず、優衣さんはおっぱいぷはぁ~してもらってるから……ワンチャンあるのかこれ!? いやっ、これ以上想像するのはやめよう……
次に、春香は、流石にないだろう、愛花もセックスは流石に求めてこないだろうし、萌絵も多分ない。
愛梨さんは……愛梨さんはどうなんだろう?
両想いだし、俺からセックスしてください! って言ったらしてくれるのだろうか?
ヤバイ、ちょっと試したくなってきちゃった。顔を赤らめながら恥ずかしがる姿まで想像できる。
そして、最後に綾香は……多分出来ちゃうんだよなぁ……
ちょっと待って。今考えただけでも、セックスできそうな女の子3人もいるんだが?
これは詩織の言ってたことも一理あるのでは!?
詩織の爆弾発言のせいで、良からぬ妄想が膨らんでしまい、中々寝付くことが出来ない夜となってしまった。
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