第49話 二人の復習(愛花3泊目)
水曜日、俺は学習塾の机で授業の準備を整えて、愛花の到着を待っていた。
今日は大学から直接塾に出向いたので、スーツを大学に持っていって授業を受けたのだが、いつもとは違う大荷物だったので、健太や詩織に驚かれた、バイトで使う服だと説明すると。
「あぁ~」
っと納得してくれた。
どうやらそれまでは、大地が夜逃げでもしたのではないかと思われていたらしい。どんな勘違いだよ。
そんな出来事を振り返っていると、塾の授業開始のチャイムが校舎になり響いた。俺は不思議に思って立ち上がり、校内を見渡した。
見渡した限りは愛花の姿はなく、他の生徒たちが先生たちと授業を始めるところだった。
俺は疑問に思い、授業の机から入口の方へと向かう。
入口の隣にある自習室を覗いてみるが、自習室には誰もいなかった。
あれ? おかしいな……俺が首をかしげていると、ドンっという音と共に塾の入り口のドアが無造作に開かれた。
「ごめんなさい、遅れました!」
そこには、はぁ……はぁ……っと息を切らしながら入って来た愛花の姿があった。
ベストと着こなした制服姿に、いつものようにサクランボのヘアゴムで髪の毛をサイドテールに結び、大きな紺色のリュックを背負って、プラスチックの学習ファイルを下げて、手を膝についていた。
「随分急いできたみたいだね……」
俺が心配そうに声を掛けると、ムクっと顔だけ上げた。
「あ、大地……おはよ。ごめん、色々……用意してたら、遅れた……」
息を切らしながら申し訳なさそうに遅刻した理由を説明すると、再び膝をついて下を向いてしまう。
「いいって、いいって。とりあえず息が落ち着くまで休憩してていいから」
「わかった、ありがとう……」
愛花はなんとか身体を起き上がらせて、荷物を背負い直し、授業の席へと向かっていく。
俺はそれを見送り、授業のプリントをコピーするため、印刷機の方へと向かった。
プリントの印刷を終えて机へ戻ると、愛花はベストを脱いで、ワイシャツ姿でペットボトルのお茶をゴクゴクと飲んでいた。
お茶を飲んで、ふぅっと息をついたところで、俺の存在に気が付きこちらを向いた。
俺は愛花の視線を受けながら、隣の机の椅子に座ってプリントを整理する。
「よしっ! 大丈夫そう?」
俺が仕切りなおすように愛花の方を向く。
「うん、平気」
愛花は、普段のポーカーフェイスの表情に戻り、キリっとしていた。
しかし、走って来たため、びっしょりと汗を掻いており、髪の毛は濡れ、制服が汗で染みてブラが少し透けていた。オレンジかぁ……じゃなくて!
俺は首をブンブンと振って下着を見ないように、愛花の顔を見るように意識する。
「汗ちゃんと拭かないと風引くぞ」
「いい、自然に乾くから」
ケロっとした表情で愛花がそんなことを言うので、俺はため息を一息ついて、スーツのポケットからハンカチを取りだした。
「ほら、俺の貸してやるからちゃんと拭け。風邪ひかれても俺が困る」
俺がそういいながらハンカチを渡す。本当は、目のやり場に困ってるだけだけど。
「わかった……」
愛花はキョトンとしていたが、そうボソっとお礼を言いながら、そのハンカチを受け取り、汗を拭き取っていく。
しばらくすると、汗を拭き終わった愛花が
「ハンカチありがとう」
といって、ハンカチを返してきた。汗を掻いていたせいなのか、愛花の表情が頬が少し赤くなってる。
「はいよ」
俺はハンカチを返してもらい、ポケットにしまった。
ハンカチをしまう際、ふわっと愛花の甘酸っぱい汗の匂いが香ってきた気がした。
「よし、じゃあ、まずは復習問題から」
俺はペチっと愛花の机の上に復習問題の用紙を置いた。
「はーい」
やる気なさそうな声を発ながらも、渋々と愛花は復習問題に手を付け始め、授業が開始された。
◇
愛花は、相変わらず見事に復習問題で満点を取って見せた。
「はい、今日も満点だね」
俺が丸付けを終えた復習問題を愛花に返却する。
「当然」
愛花を胸を張って復習テストのプリントを受け取り、自分の座っている学習机に置くと、ふと身体を俺の方へ向いて、じぃっと俺を見つめてきた。
「どうした?」
俺が首をかしげてキョトンと愛花の方を見つめると、愛花はスっと俺の目の前で立ち上がる。愛花の表情は、にたぁっと勝ち誇ったように笑っている。
「お兄ちゃんも復習ね」
「へっ? 復習?」
愛花はそう言うと、俺の方へすっと近づいてきて、そのまま身体を思いっきり俺に預けてきた。
俺は勢いよく突撃してきた愛花を何とか受け止める。愛花は、そのまま俺の太ももの上に乗っかり、俺の身体にギュっと抱き付いてきた。愛花のスペスペとした首元と綺麗な鎖骨が眼下に見えた。
「おい、バカ。何やってんだよ、ここ塾だぞ!」
俺が焦ったように小声で愛花に訴える。
「大丈夫、私たちの列誰もいないし、壁で見えてないよ」
愛花が小声で俺に向かってそんなことを言ってくる。俺は横目でチラっと確認して他の人から見られていないかを自分の目で確認した。
「大丈夫だから、大地も復習」
「だから、復習ってなんの……」
愛花はむっとした表情を浮かべると、ギュっとさらに俺に抱き付いて首元を近づけた。
「私の汗の匂い、ちゃんと嗅いで」
「なっ!」
復習ってそういう!? ってかコイツ先週のこと覚えてやがったのか……俺は眉をピクっと動かして、苦笑の表情を浮かべる。
「いいから、早くしないと誰かに見られるよ、お兄ちゃん」
上から見下ろしながら、ニヤリとした笑みを愛花は浮かべていた。
ちくしょう、コイツ……
俺は再び首元に目を向けてふぅっと息を吐いた。
愛花の言う通り、早くしないと誰かに見られてしまうかもしれないので、すばやく終わらせた方が手っ取り早いと考え、意を決して愛花の首元に鼻を近づけて、クンクンと愛花のにおいを嗅いだ。
「はっ……んんっ……」
愛花は、なんとも言えない甘い吐息を吐いて肩の力を抜いた。
その姿が妙に色っぽく感じてしまう。
そんな中、俺は匂いを嗅ぎ続けた。愛花の甘酸っぱい汗の匂いと、愛花の女の子特有のいい香りが脳の中に充満する。
「どう? お兄ちゃん?」
愛花は、からかうような口調で感想を聞いてくる。
俺は自分の顔が熱くなるのを感じながらも、ふぅっと息を吐いて答えた。
「いい……匂いだぞ……」
「そう。やっぱり変態お兄ちゃんだね」
満足そうな口調で愛花は言うと、ようやくギュっと抱きしめていた手を離して身体を離した。
俺の太ももの上に乗っかったまま、見下ろす体制で俺をニヤっと見つめながら満足そうな笑みを浮壁た後、愛花はヒョイっと俺の脚から降りて、スカートを正した。
「よしっ、お兄ちゃんがJKの匂いフェチの変態だっていう100点満点の復習もできたところで、授業始めますか」
「お前が仕切るなバカ」
「ふふっ」
ニコっと笑いながら愛花は自分の椅子に座り、何事もなかったかのようにポーカーフェイスの表情へと戻って机へ向き直った。
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