第81話 他者との壁を作る気持ち

 「悪い。待ったか?」


 「お、これは彼氏彼女の待ち合わせ時の当然の会話!吉条君一緒に帰るからって彼氏面は早いですよー!」


 バシバシと俺の背中を叩いて来る漢城が異様に面倒すぎる。


 「ハア。取り敢えず、今日は俺の憶測を帰り道に聴いてもらおうと思ったんだが、今何時だ?」


 「華麗にスルーする吉条君は頂けないですが、今は六時ぐらいですね」


 「帰るのは八時ぐらいになっても大丈夫か?」


 「まあ、それぐらいなら連絡すれば大丈夫ですよ」


 「あー、あの面白いお母さんな」


 「私は全然面白くないですけどね!まさか、家に居るとは思わなかったんっですよ!」


 漢城は少し顔を赤くしながら手慣れた手つきでスマホを扱ってポケットにしまう。


 「もう大丈夫ですよ。それでこれから何処に向かうんですか?」


 「それは行ったら分かる。歩きながらまずは俺の憶測を聞いてくれ」


 「怪盗Xについて見当は付いているんですか?」


 「絶対とは言い切れないが、まあ歩こう。時間が勿体ない」


 「確かにそうですね」


 漢城と一緒に目的地へと歩きながら、これまでに起きた全ての出来事を漢城に伝える。


 「……花飾りもそうだったんですか。最悪ですね。私も仕事増えましたし。しかも、複数犯とかもっと最悪です!」


 「まあ、そうだな。だが、そこも問題だが、もっと大事なのは今回の犯人。その一人の候補者として春義先輩だと俺は思ったんだ」


 「春義先輩?どうしてです?」


 「俺が小野へ浮気の話をバラしたこと。まあ、黙ってろなんて言われていないんだが、軽々と言って良い事でもなかったかもしれんが」


 「それは春義先輩の自業自得ですよ。そこだけに関しては本当に小野さんは可哀そうだと思います。勝手に浮気されてるんですから」


 「まあ、そうだよな。まあ、それだけじゃなく体育祭のペンキとかあっただろ?それで、今回の復讐としてやってるんじゃないのか?って思ったんだ。春義先輩が主犯格かそれとも協力者なのかは知らないけど、犯人の候補としては良いかと思ったんだけど」


 「うーん、春義先輩と言うのは確かにあり得ない可能性ではない気がしますけど、それを言うなら小野さんが一番妥当じゃないです?吉条君一番恨みとか買われてそうですし」


 「おい、普通に自分を除外してんじゃねえよ。お前も協力したんだから同罪だろうが」


 「ちぇ。バレましたか」


 こいつは本当にとんでもない奴である。


 「まあ、小野の線は薄いだろうな。あいつなら自分がやったって言う明確なヒントがある筈だし、今後あいつは手を出してこないと言った。小野が嘘を吐くようには見えないんだよな」


 「……言われてみれば今回の件は前回と違って小野さんらしくないと言えばそうですね。だけど、それじゃあ犯人は誰なんです!?」


 「それが分ったら苦労はしない」


 「その通りだった!」


 ああ!と頭を抱える漢城。やはり馬鹿だった。

 こんな馬鹿な漢城を見ていると、一つ気になることがある。

 先程部活での会話で漢城が人に対して壁を作っているという話。その話がどうしても気になってしまった。今の漢城には全くそれが微塵も感じられないから。


 「……なあ、一つ聞いても良いか?」


 「何です?あ、私のスリーサイズは教えられないですよ?」


 「お前の頭は常にお花畑だな」


 「遠まわしに馬鹿と言われるなら直接言われた方がましです!」


 「そのだな、別に答えたくないなら良いんだが、お前が人に壁を作っている噂を聞いたんだが、本当なのか?」


 「はい。本当です」


 あっさりと認める漢城に少し何を言えば良いのか分からず、聞いてしまった自分に後悔してしまった。


 「……自分で聞いておいて黙るってどういうことです?別に気にしなくても良いです。私は初めは誰に対しても壁を作る人なんです」


 「悪い。なんでなんだ?」


 「私って結構モテるんですよ」


 「突然の自慢話に俺は何て返答すれば良いのか分からないんだが」


 「自慢話じゃないですよ。まあ、モテるから女子は牽制目当てで私に近づいて来る人ばっかりなんです。遠まわしに誰が好きだってわざわざ私に言いに来て取らない様に牽制してくる人ばかり。その目当てで私に近づいて来る人間が中学校時代でした。私はそれが凄く大っ嫌いなんです。私の中身を見て近づこうと思っている訳でもない。男子もそうです。あんまり話したことも無い人がどうして中身を知っているのか信じられません。挙句に別に取った訳でもないのに、告白されれば裏切った、振れば調子に乗ってると言われ、もうどうすれば良いか分からない始末です」


 普段明るい漢城が、本当に面倒そうにうんざりしている様に話している姿を見るのは初めてかもしれない。


 「だから、初めに壁を作るのか?」


 「そうです。私があんまり寄り添わなければ牽制や面倒事が起きなくて済みますから。まあ、だけど普通に私にただ友達として接してくれる人間もいます。私を先輩として普通に見てくれる後輩もいますから、その人たちには壁なんて作りませんけどね。その中にも寺ちゃんもその一人です。だから、絶対に助けたいです」


 「寺垣を助けるのはもう決まってるんだが、俺が気になるのがもう一つ。俺って殆ど壁なんて作られている気配が見つからないんだが、それは俺が気付いていなかっただけなのか?」


 「吉条君に壁なんて作ってないです」


 「え?何で?」


 「逆に何で?と聞かれることに私は驚きです」


 あれ?俺何かしたか?何もしてない筈。

 

 「俺何かしたか?」


 「私に近づいて来る男の人は大抵皆ア優しく接してきます。だけど、吉条君は初めから凄く冷たかったです!もう私に一切興味が無いのがまる分かりなのに壁作る必要ないですよね!?」


 「あー、そう言う事か。確かにお前の顔に魅力が無いわけじゃないが、人は顔じゃないと言う事をこの学校に入って身をもって学んだからな」


 「……それ小野さんのこと言ってるのかもしれないですけど、私と吉条君の初対面はもう少し前なんですが?」


 「……そうだったか?まあ、細かい事は気にするな」


 「一切細かくは無いと思うんですが!だって私初め話した時は女子に興味が無いホモなのかと思いましたよ!」


 「お、お前、それは自意識過剰過ぎだろ!」


 「私だって自信がある訳じゃないですけど、一学期中に二十人以上告白されたんですよ」


 「え?マジで?」


 え?こいつそんなにモテるの?もしかして小野と同レベルぐらいなんじゃないのか?


 「マジのマジです」


 「ハッ!俺だって一学期の頃は十人ぐらい誰かと話したんだからな!」


 「自慢話がしょぼすぎて悲しく見えてくる!」


 「……止めようぜ。話してて悲しくなってくる」


 「それは吉条君だけですけどね」


 「……もうその話は終わりだ。本気で怪盗Xを探すぞ。さあ、容疑者を絞り出せ。文実の中に居る筈だ」


 「文実と言われましても、私と吉条君が知っているのは、吉木先輩、春義先輩、小野さん、澤ちゃん、泉ちゃん、うーん後は私自身がいます!まさか吉条君私が犯人だと!?」


 「何を言ってんだよ、お前は違うだろ」


 「ほほう、その根拠は何です?」


 本気で探すっているのに、こいつはまたふざけている。


 「あのな、お前が犯人だと思うならここに呼んでない。呼んでるんだぞ」


 歩いていた漢城の足並みが突然止まり、こっちを真顔で見つめている。え?どうした?


 「何やってんだ?」


 「……い、いえ。何でもないと言う事はないですが、まさか吉条君の口から」


 「え、何なんだ?」


 途中で言葉を止めて、固まっている漢城。


 「い、いえ!何でもないです!さあ、張り切って行きましょう!目的地はもう着くんです?」


 何故か急に話を逸らされたんだが、まあ今は漢城が真剣になりだしたので口を挟む必要はない。


 「ああ。もうすぐそこだ。地図と見合わせても、この先の通りを左に曲がれば着く筈だ」


 「そう言えば、結局何処に行くんです?私聞いてないんですが」


 「この道を曲がったら分かる」


 「ほほう。それは楽しみ……え?」


 「どうした?」


 道を曲がった瞬間、漢城の動きが再度止まる。こいつ今日どうした?


 「あ、あの、この先ってもしかして繁華街です?」


 「そうだけど?」


 「わ、私無理です!!」


 はい?

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