第80話 漢城伊里と一緒に戦おう
「吉条君の事ですし面白そうな匂いがあるのは私も分かりますし、協力したいのは山々なんですが、私今凄く忙しいですよ?」
「見たら分かる」
「そんなはっきりと言われたらそれはそれで私がどうしたらいいのか困るんですけど」
以前一度だけ新聞部の部室に来たことはあるのだが、その日は全く忙しさのかけらも見られない程の静けさを保っているのだが、今は五人の部員が大慌ててで作業に当たっている。
「一度聞いておくが、今これは何をしてるんだ?」
「私達新聞部の一大イベントですよ。学校に張り出される記事の今までの総まとめを出すんです。今までの学校で何があったかなの記録や、この一年間の出来事などを新聞部独自で纏め上げて提供するんです。それに、私は文実も重ねているのですごく大変なのです」
「そうみたいだな」
「それで、この現状を見て吉条君の言葉は?」
「協力してくれ」
「……吉条君は人の話を聞かないと心の中でメモしておきます」
確かに凄く大変そうだし、分かるのだが俺は漢城に協力して欲しい。今回の怪盗Xの案件は『お悩み相談部』での挑戦状。そんなのは分かり切っているのだが、今となっては怪盗Xの思惑に乗っている場合ではなくなった。
「漢城。お前には一つ貸しがある筈だ」
「え?ありましたっけ?」
「俺がある」
「何の引っかけ問題!?意味が分からないです!」
「もう一つ増やさないか?」
「増やさないんで協力は無理です。文実だけでも正直この部活には面倒を掛けているので、これ以上迷惑を掛ける訳にはいきません」
うん。ド正論であり最もな意見すぎる。
漢城は文実の人間であり、更に部活もある。それに加えて俺の協力は無理だと。うん。言い返しようもない。
なら……。
「俺がお前の新聞部の協力をする。だから、漢城も協力してもらいたい」
「……吉条君が働くって言いました。明日は台風が来ます」
「俺を馬鹿にしているんなら、倍返しでお前を馬鹿にする」
「冗談です!冗談ですから勘弁してください!……ただ、本当に何があったんです?そこまでするなんて」
「お前俺の協力の事ならある程度分かっていると思ってたんだが、違うのか?」
「ちょっと私エスパーじゃないんで分からないです」
怪盗Xの事も話していたし、ある程度は分かっていると思ったのだが、俺の勘違いなのか?
「もしかして今日の朝の廊下の紙見てないのか?」
「紙?紙って何です?」
「あ、私知ってますよ。今日の朝からその話題でクラスでも結構大盛り上がりでしたよ」
以前漢城と俺の関係について何やら疑っていた後輩の子が段ボール箱を手に持ちながら答える。まあ、普通は知っていて当然だよな。
「漢城知らないのか?情報なら何でも知っていると思った漢城が?」
「え!?何なんです!?凄い気になるんですけど!」
「実は今日の朝」
「ちょっと待て後輩」
後輩が説明しようとしているが、慌てて喋るのを止めさせる。
「…漢城知らないんだな。凄い有名だしこの学校の殆どの奴らが知っているはずなのになー」
「うう!教えてくださいよ!凄く気になるじゃないですか!」
本当にいじられやすい奴であり、反応が面白い奴である。見るからに悔しそうな顔をしている。
「よし。教えて欲しかったら俺に協力しろ」
「性格がごみの様に悪い!最悪最低です!極悪非道です!」
「ぼろくそに言ってくれるな。まあ、冗談だ。どっちみち協力してもらうには話さないといけないからな。実は――――」
どうして漢城がこんなにも特大の情報を知らないのは分からないが、取り敢えず話すと、漢城はプルプルと震えだす。
「……漢城?」
「頭にきました!どうしてそれを吉条君は早く言わないんですか!吉条君に協力します!それか私が寺さんの無実を証明します!」
「あの、寺垣先輩のあの紙って嘘なんですか?」
漢城が怒りに満ち溢れている中、話を聞いていた漢城の後輩が俺に尋ねてくる。
「そうらしいぞ。寺垣の親友の南澤の話だとこの人物は寺垣の父親らしい」
「……そうなんですね。だけど、クラスじゃ大人気の寺垣先輩があんなことしてるって凄い事になってますよ」
「だろうな。俺のクラスでもそんな風になってる」
寺垣は学校で有名人だが、今回はそれが仇となりとんでもないほど拡散してしまっている。これを止めるには、犯人を突き止め、そいつに白状させるほかない。
「どうして寺さんがそんな事をする風に見えるんですかね!私は信じられません!」
「信じられないこそ、あの写真で疑ってしまうんだろ」
「うう。そうかもしれないですけど、許せないです!私は協力します!」
「……漢城先輩。こんなこと言うのも何ですけど、部活の方も結構きついんですけど」
話を聞いた後輩もまた漢城の協力を止めるのは偲ばれるのかもしれないが、部活の方も優先して欲しいんだろう。
「そっちの部活は俺も協力する。ここで今となっては学年一位の実力を見せてやる」
「が、学年一位ってもしかしてテストで一位なんですか!?」
「ああ。その通りだ」
「凄いですね!ここの学校って結構偏差値高い筈なのに!」
「ハハハ。もっと褒めて良いぞ」
久しぶりに褒められる気がする。部活連中は俺の事を一切褒めないからな。大変良い気分だ。何て良い子なんだろうか。
「ちょっと、あんまり吉条君を褒めたら駄目ですよ。直ぐに調子に乗るんです」
「分かってないな漢城。俺は褒めて伸びるタイプだ」
「はいはい。手伝ってくれるのはありがたいんで、それでいいです?」
「私はちゃんと出せればそれで良いので全然大丈夫ですよ」
「よし。まずは、何をしたら良い?」
「そうですね。今年一年の出来事をこのメモに書いてあるので、その中でも面白そう、もしくは重要そうなのをパソコンに打ち込んでいってください」
「任せろ。ここで良いか?」
「大丈夫です。これがメモなので私はこれまでの学校の資料を探さないといけないので」
「頑張ってください」
「何て良い後輩だ。漢城、見習った方が良いぞ?」
俺に対して素直に頑張ってくださいと勇気づける一言を言ってくれるなんて本当に漢城とは大違いだ。
「吉条君は私みたいな清らかな性格を見習った方が良いと思いますけどね」
「お前の性格を見習ったら馬鹿がうつる」
「馬鹿にしないで!」
漢城にメモで叩かれてしまう事もあったが、丁度パソコンは起動してあったので、後はメモ帳を見ながら打てばいいだけだ。
「……あの一つ聞いても良いですか?」
「ん?どうした?」
メモ帳とパソコンを交互に見ながら打っていると、違う部員の女子が一人話しかけてくる。
「漢城先輩とどういう関係なんですか?」
「……それは前にも聴かれたんだが別に普通だぞ?」
「そんな風に見えないんですよね」
「分かる。全然違うんだよね」
俺に以前聞いてきた後輩と、今聞いてきた後輩が同意し始める。
「漢城っていつもどんな感じなんだ?」
「ええと、最近はこんな感じですけど、私がこの部活入った当初は少し壁がある感じだったんですよ」
漢城に壁?そんなの微塵も感じられないのは俺が普段誰とも関わってないせいなのかもしれない。
「……全くそんな風には見えないんだが、もしかして俺も壁を作られているのか?」
「逆ですよ!全く作ってないから私達気になってるんです。先輩も初めは壁とかあったんですか?」
「いや、全く分からなかったな。正直初めは……あーちょっとあったかもしれないが、直ぐに無くなってた気がするな」
今思い出してみれば、伊瀬の件で協力してもらった時、適当にぶらぶらと歩いているときは少し距離があったかもしれない。
「ええ!私達とか一学期の後半ぐらいから段々と普通に接してくれるようになったんですよ。本当に付き合ってないんですか?」
「本当に付き合ってないな。俺は嘘は吐かん」
俺はずっと思っていたのだが、
「お前ら忙しいんじゃないのか?」
「忙しいですけど、こっちの方が気になりますよ」
「本当にね」
こいつら忙しいとか言っているが嘘ではなかろうか。嘘なら俺は即刻働くのを辞めたいんだが。
「取り敢えずお前ら働いとけ」
「「はーい」」
後輩二人は気だるげに返事をしながら戻っていく。
だが、働きながらも先程の二人の言葉がずっと引っかかっていた。
漢城はどうして人と壁を作るのだろうか。基本、漢城のコミュニケーション能力なら全く壁など必要ない気がするんだが、どうして壁を作る必要があるのか、それが分からなかった。
まあ、気にしてもどうせ俺には分からない話だろ。取り敢えず、目の前の仕事に集中しよう。
「――――取り敢えず、半年分ぐらいは出来たな」
「お疲れ様です。学年一位の実力は全く微塵も関係なかったですけど、助かりました」
「お前は本当に一言余計なんだが?」
「吉条君にだけは言われたくないです」
半年分ぐらいの記事を纏められて、凝り固まった背筋を伸ばしていると隣から漢城がいつの間にか自動販売機に行ったのかコーヒーの缶を渡してくれるのでありがたく貰っておく。
「お金返したいんだが、今部室に有るんだよな」
「別に良いです。今回は普通に私が助かりましたから。これなら少しぐらいは協力出来る時間もありそうですし」
「その協力をしてもらう為に俺は働いただけだ。この缶は関係ないから後できちんと返す。それよりも、そろそろ下校時間だしもう大丈夫か?」
「はい。もう大丈夫です。皆も帰って大丈夫ですよ」
「「はーい」」
他の部員も挨拶しながら帰り支度を済ませているので、俺もそろそろ出よう。
「漢城、これから少し協力してもらっても大丈夫か?」
「……あんまり遅くならなければ大丈夫だと思います」
「今日はそんなに時間は取らないつもりだから大丈夫か。少し部室に顔を出してくるから昇降口で待っといてくれ」
「了解です」
漢城が元気よく返事をしているので、大丈夫だろう。俺も情報収集の為に一度部室に戻る。
「……どうだ?何か見つかったか?」
もう大体南澤と泉が落ち込んだ様子を浮かべているので、見当は付くのだが一応聞いておく。
「駄目ですよー。寺垣先輩なんて全く嫌われているなんて話は聞きませんよ」
「私は二つぐらい部活二つぐらい見つかったけど、真由美を恨んだり、この部活を恨んでいるようには見えなかった。元々その二つとも殆ど部活の活動をしていなかったみたいで、初めから人なんて来てないらしいわ」
どっちも駄目か。まあ、そう簡単に尻尾を掴ませるわけはないよな。
「まあ、初日だしこんなもんだろ。明日からも続けていけば見つかる筈だ」
「広先輩はどうだったんですか?」
「俺はまだだ。明日から本格的に動くつもりだ」
「そうなんですねー。けど、こんなことしていて見つかるんですかね?」
「正直に言って分からん。なんせ、怪盗Xに対する情報が少なすぎるからな。何時かミスをするか、どんどんヒントをくれないとこれ以上の案は俺には思いつかない。清水は思い付くか?」
「私も何も思いつかないわ。吉条君と同じでこれ以上ヒントが無い限りどうしようもないわね」
清水も俺と同じ意見のようだ。
「それじゃあ、明日からですね。私お先です」
「あ、私も帰る」
「お前ら分かっていると思うけど、怪盗Xが何時何をしてくるのか分かんないだから不用心な真似だけはするなよ」
「分かってますよ。私を馬鹿にしないでください」
泉がカバンを持ってそそくさに帰っていくのに、南澤が付いて行く。俺もカバンを持ち扉に手を掛ける。
「吉条君。貴方の欲しがっていた場所分かったわよ」
「は?もう分かったのか?」
場所と言えば思い付くのは一つしかない。寺垣が写真を撮られた場所だ。その場所の特定を清水に任せていたのだから。
「当たり前よ。私にかかれば動作も無い事よ」
「ハ。流石清水だな。だけど助かった」
「お礼は結構よ。私がしたくてしたことなのだから」
清水がこちらに来て一枚の地図の様な物が描かれた紙を渡してくれる。
ここにきて少しでもヒントと言うよりは手掛かりが手に入るのは僥倖だ。
――――怪盗X。絶対にタダで済むと思うなよ。
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