第44話 南澤の異変

 色んな所を見て回れば、はぐれていた南澤、寺垣と合流し、やって来たのはゲームセンター。


 「私ゲームセンターなんて久しぶりに来たわ」


 「女子ならよく来たりするんじゃないのか?」


 「私はあんまり来ないわね。それよりも買い物が好きだし」


 意外であった。女子はプリクラだったか?あれが好きだということを妹からも聞いた事があるから、女子ならば誰でも撮るものだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


 「これ欲しい」


 「あ?」


 南澤と話していると、向江が服を引っ張って一つのパンダの人形が入っているUFOキャッチャーの所に連行される。


 「欲しいのか?」


 「うん」


 「頑張って取ってみろ」


 「……取って」


 「はあ?何で俺が取るんだよ。お前が欲しいだろ?」


 このお馬鹿なことをほざく向江は何時からこんなに我儘な子になってしまったのか。やはり、悪影響を及ぼすであろう漢城と泉のせいであろうか。

 しかしながら、俺の言葉が気に喰わないのか少しジト目でこちらを睨んでくる。


 「それぐらい取ってあげればいいじゃないですか」

 

 そこで妙な横槍をいれてくる漢城。


 「本当にその通り。そんな事もお兄ちゃんは出来ないの?ていうか、少しは察したら?」


 「何を察するんだ?」


 「だから少しは自分で考える!考えてみたら分かるかもしれないじゃん」


 妹に言われ、少し考えてみる。

 向江が俺にとって欲しい理由。


 ……分かった。


 「お前もしかして」

 

 何故か、俺が言葉を発したら妹が少し前のめりになる。え、そんなに俺の言葉気になるの?普通のことだと思うんだけど。


 「さっき服を買ったからお金が無いのか?」


 「どんな馬鹿ですか」


 「……今日俺はどれだけ頭を叩かれるんだ」


 俺が答えると、背後にいた泉から後頭部を叩かれる。

 この学年二位という地位にいる天才的頭脳の頭を叩くとか正気じゃないからな?


 「良いから取ってあげたらいいじゃないですか」


 「…まあ、別に使い道があるわけじゃないから構わないんだが」


 ワンコインで出来るということで、一度やってみるのだが、当然と言うべきか一度掴むことが出来るのだが途中で手放され落ちてしまう。


 「残念だが取れないようだ」


 「惜しい。もう一回」


 「えー。絶対に取れない気がするんだが」


 俺の目から見れば、全く惜しくはない。これが当たり前で取れないのが普通だと考えているのだが、向江から見れば惜しかったらしい。

 どうせ駄々をこねられ、最終的に俺がやる事が決定している流れなので、向江が取れないと納得できる形で終わる様にもう一度ワンコインを入れてやってみる。


 「え」


 「おお!」


 泉が驚きの声をあげ、漢城が感嘆の言葉を出す。

 正直俺も心底ビビっているのだが、奇跡的に人形についている小さな輪っかになっている紐にひっかかり手に入れることが出来た。


 「ほれ向江。欲しかったんだろ」


 「うん!ありがと!」


 向江が心底嬉しそうにパンダの人形を握りしめる。そんなに嬉しがるのであれば少しは取ってあげた甲斐があったというものだ。


 「UFOキャッチャー名人と呼べ」


 「……本当にこの先輩は直ぐに調子に乗りますね」


 「一度取ったぐらいで何を言ってるんだか」


 泉、漢城の二人に呆れられると少し馬鹿にされている気分になる。


 「そんなに馬鹿にするなら一度でも取ってから言うんだな。出来るならの話だが」


 余裕の笑みを浮かべると、二人の眉がピクリと動き、


 「良いですよ。このぐらいささっと取ってあげます」


 「余裕です」


 しかしながら、二人がそれぞれ違うUFOキャッチャーでやってみるのだが、結果は取れない。


 「フ。まあ、お前らは俺を馬鹿にしても自分では取れないということは俺より馬鹿だということだな」


 「めちゃくちゃ調子に乗ってます!」


 「絶対に取ります」


 二人はどうやら煽りに弱いようで直ぐに乗せられ、どんどんお金を費やしていく。

 初めの頃は見ているのも中々に楽しかったが、数回見れば飽きてしまい、ゲームセンターなんて久しぶりに来るので少し歩き回ろうと思えば、金髪で目立っている南澤に目が留まった。


 「……あいつは一体何してんだ」


 寺垣が何処に行ったのかは知らないが、南澤は不良の数人に囲まれてナンパされている現場が目の前に映った。だが、俺は前回もう助けないからなと言った筈だったのだが、どうやらまた絡まれている。

 助けなかったとすれば、南澤がいないことに気付いた他の奴らが捜し泉や寺垣が発見すれば、さらに事態は悪化し、面倒になるかもしれない。そう考えれば今助けた方が良いのだろう。


 「おい、何してんだいくぞ」


 「あ」


 南澤は少し助かったと顔を隠そうともしない。俺が思っている以上に南澤は前回の事もあってか怖かったのかもしれない。


 「ちょいちょいこっちが話してんだから邪魔すんなよ」


 「こいつは俺と来てるんだ。悪いな」


 「いやいや、譲ってくれよ。君も俺達と遊んだほうが楽しいぜ?」


 ……こういった輩か。ナンパする輩には俺は二つのグループがあると思っている。ナンパして男がいることが分れば引き下がる輩と、引き下がらない輩。当然引き下がらない方が面倒だ。


 「ハア。襲われそうです!誰か!痛いよー」


 棒読みで叫ぶと、当然周りから沢山の視線を受ける。


 「お、おいてめえ!」

 

 不良の一人が急いで止めようと俺の胸倉を掴むが、それこそ俺の思惑ということが分かっていないらしい。


 「あー、痛いなー」


 大きく叫ぶと当然何か起きているのだと周りが理解を示してくれる。


 「てめえ」


 不良が睨むがこちらとしては全く怖くない。


 「分かったろ?どっかいけ」

 

 こっそりと呟くと不良が殴り掛かりそうになるが、他の人達に止められる。


 「やべえって、警察が来る前に逃げるぞ。そこまでやる必要ねえって」


 「っち。お前顔を覚えたからな!」


 「どうぞー。ご勝手に」


 去っていく不良たちに手を振りながら南澤に向き直る。


 「…お前もいい加減何かされる前に叫べって。本当に危ないぞ?」


 「わ、分かってるわよ!別にビビッてなんか無いし、一人で対処出来たから」

 

 「これで二度目だぞ?別に叫ぶことを恥じることは無いだろ。自分の身が一番だろ」


 「だから分かってるから!別に吉条に言われなくても一人で何とか出来るから!」


 一方的に言い残し、南澤はまた一人で勝手に何処かに行ってしまった。


 「……あいつどうしたんだ?」


 何処か少しピリピリしている様に見えたのは俺の気のせいか、もしくは不良に襲われたことによる恐怖故なのかは分からん。


 「ごめんね吉条」


 そこにオレンジジュースを両手に持った寺垣が姿を現す。


 「おい、南澤何かあったのか?」


 「今あったと思うけど、大丈夫なの?私一部始終しか見てなかったけど、吉条があの人達煽ってたけど」


 「俺達は今日ここから行くからな。何があっても大丈夫だという算段だ」


 「……賢いね。それよりも真澄だけど気にしないでね?本当は感謝してるけど、プライドが邪魔してるだけだから。本当は感謝してると思うし」


 「別にお礼を言われる必要も無いが、何処かおかしい気がしただけだ。勘違いなら別に良いが」


 「……勘違いではないかもね」


 「どういうことだ?」


 「う、ううん。何でもない。それより皆の所に戻ろ。待ってるだろうし」


 「そうだな。戻ろう」


 寺垣が戻る中、少しの間立ち尽くして寺垣が行く方を見てしまう。

 初めて寺垣の笑顔が胡散臭く、何処か作り笑いの様に見えた。何があったのかは分からない。だが、南澤もまた何処か様子がおかしく見えたのは見間違いではないと少し自信がある。


 ……俺はナンパ集団に出くわした際に何かしら起こる様になっている様にしか見えないが今はそれ所ではない。

 何があるのか、少し自分の中にわだかまりがあるのを自覚しながらショッピングモールを出ることになった。


 「それじゃあ、ここで向江とはお別れだな。じゃあな」


 車で海の家まで向江を送り届け、ここでお別れとなる。

 向江はギュッと俺がUFOキャッチャーで取ったパンダの人形を握りしめ、


 「また遊んでくれる?」


 「会う日があればな」


 「バイバイ向江ちゃん。また遊ぼう」


 「うん。絶対遊ぼう」


 妹も向江と握手をしながら別れを告げて、俺達は車に乗る。


 「バイバイ!」


 車から顔を出せば、向江は頬に涙を流しながら笑顔で別れを告げてくる。

 

 「じゃあな」


 向江に別れを告げて、俺達はわが家へと帰る。

 

 海の家に行くという少しこれからの予定が狂っていしまうこともあったが、ここからが大変だ。

 体育祭実行委員会が待ち構えている。これから何が起こるかは理解出来ないが、小野が何かをしてこようとも絶対に負けるつもりはない。


 ここからが勝負だ。

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