第23話 絞って犯人見つけよう!
「――――ほいほいほい!これぐらいかな!」
すらすらとメモ帳に部活を書き並べたメモ帳の一枚を俺に渡してくれる。
「助かる」
漢城にお礼を伝えながら、メモ用紙をすらりと見たが十五個の部活が並べられている。
自分が思っていた以上に部活の数が多いのが難関だ。
「漢城、悪いんだがここから伊瀬と同じクラスの人間がいる所だけの部活が分かるか?」
「流石にそこまでは断定出来ないですね。私だって全学年全員の顔と名前を覚えてる訳じゃないですし」
ハッキリ言えば、ここで絞れれば一気に犯人に追いつけるんだが、これに関しては漢城を責めることは出来ない。
逆にここまで絞ったことに本当に感謝してるぐらいだ。
「なら、これから行くか、それか明日に黒柿にでも協力してもらうか」
やる気が漲った今の内に行くのが最善だが流石に無理があるだろう。
一人で行っても流石に伊瀬のクラスのメンバーなんて覚えていない。
寧ろ自分のクラスのメンバーを覚える所から始めなければならないのだから駄目な話だ。
「ふっふっふ。ここは、新聞部部長である私にお任せください!」
「いえ、結構です」
「何ですと!?どうしてですか!私が一緒に行ってあげますよ!?」
「いや、お前も流石に伊瀬のクラスに関する情報なんて知らないだろ?だから、明日にでも黒柿に頼むし」
「はっはは。流石に私も全員は知らなくても、知っている所はあるんですよ!ここで、少しでも情報が手に入った方が良いと言ったのは吉条君でしょう?」
「え?知ってたりするのか?誰も知らないと思ったんだが」
人差し指を左右に振り、まるで甘いな僕と言われている気分である。
表情豊かで元気はあるのだが、人を舐め腐った態度を取られるとカチンとくるので一回痛い目に遭わせてやりたい。
「実は!今向かっているのは丁度、伊瀬さんのクラスにいるかどうかは分かりませんが、クラスの一人は必ずいるだろうという部活に進んでいます!」
「……進んでるってここ下駄箱なんだけど」
「ささ!早く靴に履き替えてください!」
漢城に言われて、確かに少しでも情報が早めにあった方がいいのも確かなので、ここは従って靴に履き替える。
「目的地って言うのはグラウンドか?」
「その通り。一クラスには大抵一人はいるであろうサッカー部と野球部。ここならば、確実に一人はいるのでは?」
「……確かに効率的で確実性があるな。流石新聞部と言った方いいのか?」
「そう言ってくれると、嬉しいですが私はここまでしか出来ないんですけどね。ここから、伊瀬さんと同じクラスの人がいるか分からないので、ここまで来ましたし、少し見ていきましょうよ」
別にこれから何か用事があるわけでも無いし、別に拒否する必要性も感じない。漢城と一緒にグラウンド全体が大体見渡せる階段に座りながら、運動部の様子を見渡す。
「こう見ていると、本気でやっている奴とやってない奴がはっきりと分かるな」
サッカー部ではミニゲームをしているのか、ビブスを着たチームと着ていないチームで争っているが、所々で歩いている人間がいれば、全力で走っている人間もいる。
「そうですね。まあ、部活に求める物なんて人それぞれですしね。どちらでも良いと思いますけどね」
漢城にしては意外な言葉であった。こいつは新聞部として毎日ネタ探しに明け暮れる日々を送っているのならば、頑張っている人を肯定する派かと思ったが違うらしい。
「……ただ、分かってたことだが、これ見てるだけじゃ全然分からないよな」
「そりゃあ、これで分かったら私だってネタ探しに苦労何てしてませんよ。だけど、よりコミュニケーション能力を取っている人とか、それらしき人物は分かるんじゃないんですか?」
「確かに……ん?あの人は」
言われた通りに、より人とコミュニケーションを取っている人間を探していたら、知っている人を見かけた。
「誰か気になる人でも?」
「いや、そうじゃなくてただ依頼に来た人がいてな。春義先輩ってそう言えば誰かがサッカー部って言ってたな」
ミニゲームをしていたサッカー部は一時休憩なのか、タオルで汗を拭ったり、水分補給をしている人たちもいる中、春義が友達と思わしき人達と話している場面が見受けられた。
「あ~。春義先輩ですか。あれは私も知ってますよ。小野さんとお付き合いしてる人ですよね?」
「らしいな」
まあ、そのお付き合いも何時まで続くのは定かではないが。
「サッカー部のエースですよね。キャプテンとは仲良しだとは聞いてます。それに、小野さんと付き合っていてもまだ、結構モテてるらしいですよ」
「まあ、あの顔だからな。逆にモテない方がおかしいだろ」
あれでモテないのであれば、逆に何ならモテるのか教えて欲しいぐらいだ。
「まあ、確かに顔はイケメンですよね。ただ、中身はどうかは分かりませんけど、噂を流すような人間には見えませんね」
「俺も少し話をしたが、噂を流すようには見えなかった。逆に小野に関しては情報ないか?一応犯人候補だからな」
「うーーん。小野さんに関しては、人物像が良く分からないんですよね。吉条君と同じで」
「俺と同じ?」
「はい。全く分からないというわけでもないですが、一度取材に行った時に、小野さんと話したイメージだと完璧で隙が無い人間みたいに感じました。本当に、こんな人間がこの世にいるのかと思える程に」
漢城はこれまで、取材を通して様々な人間と話している人だ。そんな彼女がここまで言うとは小野はどんな人間なのだろうか。
「……まあ、だからこそ怖いんですけどね」
「怖い?」
「はい。だって凄いんですよ。顔が良くて、性格も良くて、明るくて話しやすい、だけど、これだけ揃っていたら普通女子から嫉妬が多いと思うんですが、これがまた嫉妬する人がいないんです。ここまでくれば、最早小野さんは怖いって私の中で結論づいてます」
「まあ、完璧超人な人間なんていればそんな風に思うのかもしれないな」
「ええ。この世に完璧な人間がいるとすれば、彼女なのかもしれません。だから、彼女もまた噂を流すようには思えないですね」
やはりそうなのか。小野と言う存在は学校一の美少女。それならば、伊瀬と何かがあったとしても噂なんて流さない可能性が一番高い。
やはり、縦繋がりで部活の中に犯人がいるのか、それとも、ただ噂好きな連中が伊瀬のクラスには多く、沢山の人が部活で言いふらした結果、学校中に広まったという可能性も無くはない。
だが、これは限りなく零に近いとも言える。
「なあ、漢城。お前が友達と話すとして知らない人間の噂を話すことってあんまりないよな?」
「そうですね。私だったら恨みとかあったら言っちゃうかもしれないけど、普通は話さないですね」
「だよな」
これが、限りなく零に近い理由。
他の学年と話すとしても、知らない人の話題ではあまり盛り上がることはない。よって、部活でわざわざ大人しく、あまり目立つことをしない伊瀬の話を部活内で喋る必要性はないということだ。
「分かってたと言えば分かってたんだが、やっぱり八方塞がりな状況なんだよな」
思わず漢城に愚痴を言ってしまう。だが、本当に手詰まりだ。
部活に所属しているからと言って、話す必要性はない。だから、伊瀬の噂をわざわざ流す必要は無い。
だからと言って、伊瀬に恨みを買った人間はいそうにない。
せめて、何かしらの共通点が欲しいな。伊瀬と、噂を流す必要性の共通点、それが分れば少しは分かる気もするんだが。
「……やはり、今までの難事件を解決した吉条君でも難しいですか?」
「難事件ってなんだ。しかも、解決したのは二つだけだ」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら、手に拳を作り、マイクとして扱っているのか、俺の口元に持ってくる漢城をあしらう。
「……それにしても、付き合ったこともない俺が恋愛関係の相談を解決するとは思いもしなかったもんだ」
「確かに、付き合ったこともない吉条君が解決出来るということは、やはり強者?」
「強者じゃないから、マイクみたいに手を押し付けてくんな」
はあ。伊瀬と流す必要性の共通点は見つからないのに、今まで解決した案件は共通点があるって、そっちは必要ないんだよな。
……ん?
……共通点?
……今までの案件。
…………………………………今、何かが閃いた気がする。
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