第21話 泉……マジか
泉は小説にはハマらない。
もしくは読むのに一週間は掛かり……もしかしたら何て可能性が芽生えていた。
しかし、予想とは裏腹に昨日の今日で読むとは流石に予想が出来なかったが、泉に伝える言葉がある。
「えー、どうしようかな。泉は小説を馬鹿にしてたからな」
「うっ」
泉が痛い所を突かれたと言わんばかりにびくりと身体が飛び跳ね声を上げる。
先程までモジモジしていたのは小説を馬鹿にしていたのが原因だろう。
小説なんて面白くないと思っていたが、読んでみれば一転、ここまで面白いとは思わず、早く続きがみたいのだろう。
俺も昔は同じ気持ちだったのでよく理解出来る。
「オタクが読むとか、妹に渡すのはないとか、散々言ってくれたからなー。あまり貸す気になれないな~」
「そ、それは」
泉がどう言ったものかとオロオロしているように見える。
こいつを弄るのは中々に面白い。
「…ハア。馬鹿にされた小説が可哀そうだなー」
「悪かったですよ!私が悪かったです!まさか、ここまで面白いとは思わなかったんですよ!謝りますから続きを貸してください」
散々言いたい放題言おうとしたが、泉が反対に開き直って謝罪しながらお願いする姿は中々に面白く、もう少し弄りたい気持ちに駆られるが、流石に可哀そうだろう。
「ほれ、まさかここまで早く読むとは思わなかったが、一応あるから良いぞ」
「やった!ありがとうございます!広先輩」
輝かしい純粋無垢な少女の顔で本を手に持ち、嬉しそうに握りしめている姿を見れば、貸した甲斐があるというものだ。
「因みに今回は一シリーズだけ貸すが普通は自分で買うんだぞ」
「分かってますよ。こういうのは買ってこそですもんね。作者に悪いんですよね。これ以外は自分で買いますよ」
「次も買うんだな」
「そ、それはまだ分かりませんけどね!」
少しだけ、予防線を張る泉であった。
本を手渡せばすぐに読み始め熱中する泉はおいて置き、次の依頼者からきちんと話は聞いておこう。
前回は、清水の気になる点は全然分からないが、今回もヒントがあるかもしれないので見逃さずに分かれば清水に分からないのか?と呟くのが目標だ。
「次の方来てください!」
「はーい!どうもどうも」
ひょっこりと現れた女の人はツインテールという髪型であり、顔はこの中にいる皆と変わらない程の顔立ちをした、
美人系ではなく可愛い系の人物であり南澤や寺垣とは違い、泉に近い顔立ちだ。
手にはボールペンとメモ帳らしき物を持っている。
……まさか。
「私、二年で新聞部部長の
……ですよね。
ここに来て、清水が残れと言った言葉の真意が察することが出来た。
「伊里ちゃんどうしたの?」
「一年以来じゃん」
どうやら、寺垣、南澤は一年の頃に関りがあるのか気軽に話しかけている。
「いやいや、澤ちゃんに寺ちゃんも久しぶりですね~。それはそうとやってくれましたね。学校の新聞より人気じゃないですか!」
「フフフ。私のおかげだからね!」
誇らしげに南澤が自慢する。
……まあ、間違いではないけど釈然としないこの気持ち!
「けど、伊里ちゃんが相談があるとか意外だね」
「そう!相談です!どうやって百%の確率で問題を解決出来たのかを知りたいのです!」
こいつは相談しに来てない。
誰から見ても取材に来ていると分からされるほどに露骨に伝えている。
相談では無いので興味も失せて泉と同様に本を鞄から出そうかと悩むが、漢城の質問で南澤、寺垣の視線がこちらを向く。
……最早嫌な予感しかしない。
漢城は二人の視線を追い、俺へとたどり着く。
「もしかして、貴方が解決したと?」
「協力してもらったから一人で解決したとは言えないが」
「どの様に頑張れば百%の確率で解決が出来るんですか!?取材させてください!」
漢城は素直な人間か、馬鹿なのかは分からないが既に相談ではなく取材の名目をばらしている。
……暇なら少しは相手をするのもやぶさかでは無いのだが、暇人では無いので今回はお引き取り願うしか、
「それは良かったわね漢城さん。吉条君は人と話す取材が大好きなの。別室でじっくりと聞くのが良いと思うわ」
清水さん!?
突然の裏切りとも言える行為に驚いて恨めがましい視線を清水に向けるが、さっさと話して少しでも役に立つ情報を手に入れてこいと目線で言われている気がする。
「お!清水さんじゃないですか。今度は彼氏とか出来たんですか?」
「余計なお世話よ。いないわ」
「はあ。折角の美人さんが勿体ないですね。まあ、それは良いんですけど、では吉条君でしたか!?早速別室で話しましょう!」
嬉々とした表情で、手を引っ張られ部室から連れ去られようとしている。
誰か、助けてくれる奴はいないのか!?
馬鹿な南澤、寺垣ですら相談では無いと理解出来たようで、俺を犠牲に次を呼ぼうという算段なのか手を振って見送っている。
清水は絶対に無理だとして、最後の砦である泉は本に夢中である。
夢中になってんじゃねえええ!!
心の中でいくら叫ぼうと、心の声が聞こえることは無く別室へと強制連行される。
見た目はか弱いインドア派の女子生徒に見えるが、存外に力が強い。
「ではでは、適当に座ってください」
「分かってると思うが相談者に関しての情報を話すのは駄目な決まりだから話せないぞ?」
あらかじめ伝え、なら必要ないと退出できる薄い期待を秘めたが、漢城はこちらの気持ちなど微塵も分かっていない様子で微笑を浮かべた。
「分かってますよ。広告にも相談者に関して聞けないのは書かれてたので察してます。取り敢えず座りましょう」
分かっているなら無駄なやり取りをする必要もないし、最初こそ面倒で渋々の形だが裏を返せば絶好の機会にも考えられる。
会話を続ければ犯人候補の名にも挙がった漢城伊里という人物が少しでも分かるかもしれない。
言われた通り椅子に座り、漢城も俺が座るを見てから対面に座る。
「最初の質問ですが解決方法なら教えられますよね?」
「解決方法って言われてもな、俺だけじゃなくて他の奴らの協力も交えて初めて達成出来たわけで、一人で解決したわけではない」
「成る程。部員全員の協力があり解決出来たと?」
「そうだな。全員で解決するっていう形だな」
「ふむふむ。これはメモですね」
漢城はメモ帳にボールペンで素早く何やら書き出す。
メモを取る手が異様に速いのは漢城が色んな所で取材をしている証拠でもある。
可能性の話をすれば伊瀬の噂が知りたくて情報を聞きに行くのは捨てきれないよな。
「じゃあ、次ですね。解決率百%と言いましたが、今までで何件解決したんですか?」
「あれは間違いではないが、まだ二件だ。昨日からの依頼を合わせれば何件解決出来たのかは俺もあまり詳しくは知らない」
「あ!成る程。そう言うことですね!澤ちゃんは頭良いですね!嘘ではないですが、件数は少ないと、これはちょっと勉強になりますね」
漢城はペンを書く手を止めることはなく、すらすらと書き並べていく。
少し話した程度での見解で言えば、漢城の人物像は記事を書くのに夢中の人間。
だが、礼儀は弁えている。
遠回しに尋ねて白状させるわけでもなく、無理やり相談の案件について聞いてくると思えば違った。
漢城が少しでも悪い人間なら噂を流す可能性も残されていたが、勘だが違う気がする。
これで小野も伊瀬と関りが無ければ、本当に手詰まりだ。
初めから調べ直さなければならない。
先程から嬉々とした様子を見せながら書いているのを見れば、
「――――漢城は噂を流した人物ではないだろう。今、そんな風に思いませんでした?」
「――――――――」
思わず、口を開けて呆けてしまった。
漢城はボールペンで書く手を緩めずに、書きながら呟く。
カリカリとボールペンを記す音だけが教室内に響き渡る。
思っていることがバレたのだ。
意味が分からない。
噂のについて一つも漢城に話してはいない。
「フウ。取り敢えず、当たり障りのない事は終わりにしましょうか。楽しくお話ししましょう――――吉条宗広君」
書き終えたのか、メモ帳をパタリと閉じ、こちらを向いた漢城の表情は何故か、笑顔の筈なのに今の俺には不気味にしか思えなかった。
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