第18話 有名人のお話
こいつらは兄貴呼びで何十分も口論が出来るのだろうか?
原因は黒柿にあるのだが、論争が繰り広げられて収拾がつかない時に南澤たちがいてくれたらと初めて思ってしまう自分がいる。
無い物ねだりをしても仕方が無いのは分かっている。
この場には俺しかいない。
時間を掛ければ厳しく冷徹な女王様である清水は普通に帰ってしまう恐れがあるのだ。
最悪な展開が待ち受けているのであれば最終的には不機嫌になりやはり手伝わないとなる可能性も捨てきれないので、不向きではあるが頑張るしかない。
前回、泉がやっていたように手を叩き雰囲気をリセットし、こちらに視線を向ける。
「話している所悪いが、そろそろいいか?」
「ほら!兄貴が喋るぞ!黙って聞くんだ!」
黒柿、お前が一番黙って聞いて欲しい。
「取り敢えず、学校中に噂が広めることが出来るような人物を教えて欲しい」
景は真面目に話を聞いてくれたのか、顎に手を当てて上を見上げながら一瞬考える仕草を行ってくれる。
「学校中に広めることが出来るって言えば、やっぱりあの人じゃね?学校№1の美少女、
景は俺でも知っている人間を提供してくれる。
有名人で言えば定番だよな。
容姿は言うことが無ければ、明るく誰とでも話せる程のコミュニケーション能力、運動能力抜群とは言わないけれど、全てをそつなくこなせる人間であり、嫌いな人間はいないと噂されるほどの人間。
小野美佐子だけはボッチの俺の耳にも入ってくるほどの人間だ。
「確かにな。あれ目当てでこの学校に入った奴もいるとか噂もあれば、告った人間を百人切りしたとかの噂もあるぜ。けど、今は付き合ってるからな。無謀だよな」
「小野先輩が百人切りしたって言う噂が嘘じゃない感じが凄いよな。けど、今は付き合ってるんだよなー。相手、誰だっけ?」
「確か、三年のサッカー部の人だった気がする」
「流石、サッカー部ってか。俺もサッカー部入ってりゃワンチャンあったかもな」
景はサッカー部を何だと思っているのか。
更に、ワンチャンってなんだ。
「ないない。あれと付き合えたら逆に学校中の的だぞ」
「確かに、重圧とかあって重苦しくなりそう。絶対に無理だわ」
「まあ、普通の人間が一番良いのかもな」
若干話が逸れながらも景とオックーは長々と話が進み続ける中、先程まで騒ぎ立てていた黒柿が静かに傍観しているのが気になる。
「……黒柿、さっきから黙ってるが大丈夫か?」
「え?大丈夫ですよ!それより、お前ら二人も話が脱線して来てるぞ!他にいないのか?」
先程から黙っていた黒柿だが、気のせいか。
ただ、黒柿が話を戻してくれるのはありがたい。
一人だけではまだ候補とも言えない。
「うーん。他にって言えば、新聞部の記者で……名前誰だっけ?」
「あー、待てよ。俺も浮かび上がりそうな気がする」
景とオックーは誰か名前が浮かび上がりそうなのか必死に頭を捻らせてくれる。
今の話だけでも俺は誰の事を言っているのかさっぱり分からないので少なからず情報を提供してくれるだけでも本当にありがたい。
「それって、
「あ!それだよ!流石だ涼!あの人も新聞部だし、結構取材とか行ってるから有名じゃん!小野先輩が美人の系統だとすれば漢城先輩は可愛い系だよな!」
「俺の所にも来たから覚えてるよ。急にモテる秘訣を教えてくださいとか尋ねられたんだ」
黒柿は新聞部に目を付けられるほどモテるのか。
有名でモテている黒柿を昨日泣かせたとか、嵌めたとかバレたら俺どうなるんだろうか?
まあ、気にする必要もないか。
「あー。そんなこともあったな。帰る途中に出会った覚えがある」
オック―も漢城を知っているらしい。
因みに先程も述べたが俺は知らない。
「その他には?」
「その他はどうっすかね。俺らって自由人なんで、あんまり覚えてないんですよね」
安心しろ景。
初め見たときからお前らは自由人だと感じていた。
「俺も小野先輩ぐらいでギブアップですね。正直、俺はあんまり人気とかは興味がないですから」
「出た!オック―の性格大好き人間!やっぱ顔だろ!」
「いや!顔は普通で良いんだ!問題は性格だ!」
大変仲が良いのか、景とオック―が話を始めてしまったので今の内に整理しよう。
小野美佐子。彼女は俺でも知っている人間であり、学校一の美少女。
だが、学校一の美少女で雲の上の存在な小野と伊瀬が関りがあるのかと言う点。
問題として伊瀬と小野の接点があるのであれば、犯人の候補に入る可能性はあるのだ。
次に例で挙げられたのは、漢城伊里。
新聞部と言うことなので、当たり前だが新聞を書いている人間だろう。
もしも新聞を書く上で誰かに取材をする際に噂を聞き、それが正しいのかどうかと言う点で、色んな人に話を聞きに行けば噂が広まった。
……案外、在り得る話ではある。
悪意はなくただ新聞部として真実かを確かめるために尋ねるとなれば無いとは言い切れないだろう。
「……ありがとな、付き合ってくれて。それじゃあ、俺は戻るから」
「あ、お疲れ様っす!何調べてるのかは知らないですけど頑張ってください!」
「頑張ってください」
景とオックー……お前達は自由人でチャラそうに見えたけど、実は良い人だったんだな。
「ああ」
二人に別れの挨拶を送り、教室を出るのだが、
「……なあ、なんでお前付いて来てんの?」
少し後ろで付いて来ている黒柿に対して尋ねるが、
「兄貴を見送ろうと思いまして!」
「はいはい。それじゃあ、ここまででいいからな。取り敢えず、今日は助かった」
「兄貴の為なら任せてください!自分でも噂を発信出来る人物を探しておきます」
「頭の良いお前なら言う必要は無いと思うが、あからさまに聞くなよ?噂を流した張本人が警戒するからな」
「分かってますよ!あんまり俺を舐めないでくださいよ!」
「まあ、分かってるとは思ったが一応だ。それじゃあな」
「また、いつでも来てください!」
黒柿に見送られながら部室に戻ると、まだ清水がいたことに少し安堵する。
「――――お疲れ様。それで、有意義な情報は手に入った?」
「有意義とまではいかないかもしれないが、少しなら」
「なら、話してみてちょうだい」
清水に言われたので、小野の存在、漢城という存在について話す。
「――――成る程ね。両方とも一応知ってはいるわね。漢城というのは一度取材を受けたわ」
「お、マジか。どんなことを聞かれたんだ?」
「モテる秘訣をね。付き合ったことも無ければ、他人と話さないと言えば、あからさまにがっかりしながら帰って行ったのを覚えているわ」
一体漢城はと呼ばれている人間はどんな記事を作っているのだろうか?
モテモテ新聞でも作ってるのか?
確かに、高校生で思春期の真っ最中の大抵の人は見そうな気もするが……。
「ハア。やっぱり情報が少ないからな。これだけだと何の確証も持てん。まずは、伊瀬に二人と接点があるかどうか聞かないと話にならないな」
「確かにそうね。だけど、貴方には小野さん、漢城さんにも話を聞きに行かないとね」
「え、俺が学校一美少女と新聞部に?新手の冗談か?」
「冗談な訳ないでしょう。貴方がやると言ったんでしょ?なら、聞きに行きなさい」
……どうやら新手の冗談ではなく、本気で言ってるらしい。
先輩ならまだギリギリ頑張れば話しかけるくらいなら出来るかもしれない。
だけど、流石に学校一美少女にボッチが?
少しやる気が減ってきた。
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