7 クラス替え

 結局、同じクラスにはなれなかった。

 

 学校に着いて、奥から二番目にある校舎に入り廊下に張ってある名簿表の前に立つ。周りにも人がたくさんいたが、知り合いはいなかったために、先に結果を言われてしまうことはなかった。緊張しつつ、自分の名前を探す。


 香坂の文字を見つけても、すぐ上に見えるはずの「蔭城かげしろ」の文字はなかった。


 「深花家」の人たちは、血は繋がっているが、結婚していない人とは名字が別になっている。私たちは誰が親かもわからなければ、誰と兄弟なのかも知り得ない。


 こどもの名前を付けるときに、名字も一緒に決めるのだ。つまり、名付け終わった瞬間に、赤の他人になってしまう。誰とどう血が繋がっているのかを知っているのも、力の大きい、上の人達だけだ。


「クラス、離れちゃったね。」

「まゆみは一組か。

 なら、階は一緒だし、まだましだな。」

「そうだね。」


 私たちの学校は敷地が広く、学年ごとに校舎が別々になっている。校門をくぐって手前から三年生、二年生、一年生の順になっていて、その横に特別教室のある校舎が建っている。


 一、二年生校舎は三階建てで、同じ階の二クラスで合同して体育をする。また、この二クラスは時間割りが似たように組まれることが多いため、なにかと会う機会が多い。しかし、階が違えば学校で会うことがほとんどなくなるため、クラスが離れても階が同じなのは少し嬉しい。


「教室入ろうか。」

「うん。バイバイ。」

 

 誰がどこのクラスになったのかをざっと見終え、紳一と別れて教室に入った。学校に着いた時間が早かったために、教室に入ってもそこまで人は多くなかった。


「まゆみ!」


 私が教室に入って真っ先に声をかけてきてくれたのは、緑里みどりだった。自分の席に座っていた緑里のもと直ぐに近づく。


「クラスに緑里がいてくれて良かったよ。」

「私も!

 六分の一だよ、割とすごくない?」


 緑里は小学校の時からの親友。小学一年生の時、私に初めて声をかけてくれて、そこから仲良くなった。思えば、その時から変わらず仲が良い。


 緑里は、明るくて気のきくいい子だ。それに、私や紳一と一緒にいてみんなに見られていても気にしない強いメンタルの持ち主だ。


 私は、緑里の前では紳一のように素のままでいられる。緑里も、私に対して有名人だから、といった遠慮はしない。他にも何人も友達がいるけれど、気兼ねなく接することができるのは緑里だけ。


 さっき、紳一の名前がこのクラスにないことがわかって、すぐさま緑里の名前を探した。「奈川ながわ 緑里」の文字が見えた瞬間、心の中でガッツポーズをした。と同時に、内心ほっとしていた。


 毎日過ごす学校に、心が休まる場所がなければ辛すぎる。さすがに一日中完璧な香坂まゆみを演じるのはきつい。




 まだ始業式までの時間はたっぷりある。私は一旦自分の席に荷物を置いて、緑里と話す。


「このクラスにあんまり話せる子いないな。」

「あー、そうだね。去年一緒にいた子大体ばらけちゃったね。

 それに、まゆみが話掛けたら緊張しちゃうか媚びうってくるかどっちかだもんね。」

「そんなことはないと思うけど。」


 他の人が周りにいる教室で話しているから言葉には出せないが、私も緑里の言う通りだと思う。しかし、友達をたくさん作りたいというのが本心だ。


 先程も、私が教室に入ると空気が変わった。教室の中で、私たちがいる空間だけが浮いている。皆が注目していて、どういう距離感でいればいいのかわからないという考えがひしひしと伝わってくる。紳一がいた去年よりかはましだとは感じるが。

 

 五月ごろにはみんなもこの状況慣れて普通になるので、それまでは我慢だ。


 …普通に話してくれる友達、できるかな。


「そう?

 あ、それよりさ、うちのクラスに転校生いるっぽいね。」

「そうなの?」


 新学年になったのだから、転校生が来るのは当然と言ってもいいだろう。


「名簿見たときに知らない人いたよ。」

「へえ。」


 ただ、私は気がつかなかった。私たちの学年は全部で六クラス。各クラスにおおよそ三十人ずつくらいはいるので、名前と顔を覚えられていない人は少なくない。


 それなのに、名前を見ただけで転校生かどうか分かる緑里には感心する。


「女子だと思うよ。

 うーんと、確かしんじょう、うみちゃん?」


 緑里が発した言葉に漢字を当てて考えてみる。


「それって、新しいに、庄内平野の庄に、seaの海?」

「うん、そうそう。」


 当たった。でもそれは、もしかすると…。


「それってもしかして、うみじゃなくてかいって読んで、男の子じゃない?」

「あー、その説もあるね。」

 

 名前の読み方は難しいから、緑里が言うようにうみちゃんかもしれない。私の説と、緑里の説では性別まで変わってしまうのだから、もしも間違いならばその子に申し訳ない。


 そんな名前はこれまで見たことも聞いたこともなければ、もちろんその人に会ったこともない。けれど、私は何故か確信していた。


…その人は絶対に男の人で、名前はかいだ。


 私の中の何かが、そうだと教えていた。

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