6 登校

「いってきます。」


 学校へはいつも、紳一と並んで歩いて行く。家から学校までは歩いて十分程。その間は二人で話しながらゆっくりと向かう。


 私が人前スイッチをオンに切り替えるための十分間。紳一が横にいるからまだ良いものの、この時間は憂鬱だ。学校は楽しいけれど気持ちが知らず知らずのうちに疲れてしまう。


 そのうえ、今日からは新しいクラスだ。私がクラスにいることになれたクラスメイトも、今日からはほとんどが別のクラスに振り分けられる。一学期の間中は気を張って過ごさなければいけない。




 今年の春は例年よりも少しだけ寒かった。が、四月に入ってからは寒さが緩み、一気に暖かくなった。今日も晴れていてぽかぽかしている。


 何だか今日は春、という感じがして気持ちいい。道の横に連なって植わっている桜は、八分咲きといったところ。今日の朝に見たニュースでは、今週末には満開になると言っていた。



 そういえば、


「クラス替え、どうなるかな。」


 ふと気になって、紳一に問いかけた。


 紳一も、私と同じように桜を眺めていた。紳一は随分見入っていて、私の問いかけは聞こえていないようだった。私も、思いの外声が出ず、小さな声になってしまった。


 もう少し待ってみても返事は返ってこず、未だ桜を見上げていた。私が紳一の方に向いていることにも気づいていないほどに。


 桜は綺麗だ。この辺の道にはずらっと並んでいて、見入ってしまうのもわかる。それでも、隣にいる私の声が聞こえないくらいに魅了されているのはどうかと思う。もしかして、桜に何かあるのだろうか。


 去年までも紳一は、桜を見てはどこか悲しげな表情を浮かべていた。そして、自分の世界に入ってしまうのだ。


 前に一度、どうして桜を見ると悲しい顔をするのか聞いたことがあったが、


「俺、悲しくなってないけど。桜に見惚れてただけ。」


と、理由は紳一にもわからないようだった。嘘をついている様には見えなかったので、本当なのだろう。


 紳一に話しかけるのは諦めた。桜ゾーンを抜けてからにしよう。といっても、抜けるとすぐに学校に着いてしまうのだけれども。



 

「クラス替え、か。」


 今度は独り言。ぽつりと呟いた。ほんの少しだけ期待して紳一をチラッと見てみるけれど、さっきと同じ状況だった。



 去年は紳一と同じクラスになれた。家で一緒に過ごせるけれども、学校でだって出来れば一緒にいたい。紳一がクラスにいてくれるだけで何より心強い。去年一年間、たくさん助けてもらった。


 今年も同じクラスになれる確率は六分の一。私は、クラス替えの名簿表が張り出されてあるところに着くまで、祈っていた。

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