4.書きたいものを書け。書けるものを書くんじゃない。

 おれ、既読。

 前回は早く書くための方法について書いた。今回は、それでも省略しちゃいけない工程について書く。


 まず何をおいても省略しちゃいけないのは「プロット」だ。最初にまず、今回、おれが20日で10万字を書いたときの条件を提示しておく。


・プロットなし

・書き溜めなし

・キャラクターアイデアもなし


 とにかくなんにもなかった。

 そもそも思いついたのが1月19日で書き始めたのが翌20日だ。

 プロットから練っている暇はなかった。


 なんとなくいけるだろうと思ったのは、これまでも書いているうちに


「こういうキャラが必要だな」

「こういうヤツを出そうと思ってたけどやっぱりいらない」


 といった構成変更がたびたび発生していたからだ。


 そもそも書いてる途中で変わるんならプロットいらねえじゃんというのが、今回の発想の根本にあった。


 だが、結論から言えばこれはまちがいだった。

 やってみて初めてわかることもある。

 「プロットには最低限の時間をかけろ」が今回の教訓だ。

 その理由を解説する。


■書きたい物語を書くために

 言ってしまえば、ドラえもん形式で1話とか長くて3話くらいで完結する小さなまとまりを書き連ねていく形なら、プロットはいらない。

 おれも最初はこの形式でやろうと思っていた。


 3話まで書いた時点で存在していた構想は、主人公である三田村さんが、とにかくいろんな女の子となし崩し的にえっちなことになり、その結果として友達が増えていくという程度のものだった。


 これだと、毎回新キャラを出していく必要があるが、大きなプロットはいらない。

 10話くらいまでは何の疑問もなくこれでいこうと思ってた。


 だが、ちがうんだ。

 これでは「20日で10万字書ける小説の形を模索する」ことになってしまう。


 20日で10万字書くことが目的じゃないんだ。

 目標と目的はちがう。


 おれは、おれの書きたい小説を早く書けるようになりたいんであって、早く書ける小説が書きたいんではない。


 そう思いつつも、日平均5,000字の目標値が重くのしかかる。

 プロットをあらためてつくる余裕はなかった。


 なんだこれ!? 仕事か!?


 おれの仕事は、会社からPV目標と収益目標を課されて、その両方を達成しなきゃいけない。


 コンテンツの質を改善してユーザー体験を向上させ、PVの規模を上げていく施策が打ちたいが、リソースは限られており、収益目標に縛られてそちらのための施策に人手を回さざるを得ないといったジレンマとたたかう仕事だ。


 そういうことが、趣味の小説でも発生してしまっている。

 これではいかん。

 仕事でやってるんじゃあないんだ、もっとまじめにやれ。


 そう思ったおれは、途中で大きく方針を変更し、無理やりにでもシリアス展開をぶち込み、拙くとも物語に構造を持たせることにした。

 そうして見事に失敗した。


■プロットは海図、コンセプトは羅針盤

 創作仲間というのはだいたいにおいてクソであり、特に小説なんぞ書いてるやつらはすぐにマウントをとりたがるので、きをつけねばならない。


 今回も完結間近、あと3日で2.5万字みたいなところで平気な顔して

「唐突なシリアス展開で困惑してる」

 とかツイッタで感想をつぶやきやがる。

 

 創作仲間がいるとたいへんありがたいことに、このように悪いところは即指摘がくるので、悪いのだなとわかるわけである。


 そもそもの発端が思いつきなので仕方がないぶぶんもあるが、20日という短い期間で書き進めても、途中で方針が揺らぐことがあるのだ。

 走り始めてから進路を変更するのは容易なことではない。

 無理が生じるし、その無理は作品にゆがみになって表れる。


 これを防ぐために必要なのが、コンセプトとプロットだ。


 まず大事なのはコンセプトだ。

 コンセプトは、作品の中心になる魅力が何なのかをはっきりさせ、そこからブレないよう進路を定めてくれる羅針盤だ。


 今回の場合、「コメディタッチでさわやかさを感じるエロ展開を多様なキャラクターで表現する」というコンセプトが、書いている途中からなんとなく固まってきた。


 しかし、上述の理由から、いったんこれを取り崩してしまった。コンセプトを取り崩すという誤った判断も、コンセプトが明文化されていれば防げたはずだった。


 次にプロットだ。

 プロットは、最終的な目的地と、そこに向かうまでの行程を、文字通りプロットする(点を打つ)ものだ。

 どこに向かって、どうやって進んでいくかを示す海図のようなものと思えばいい。


 今回の場合、簡単なプロットすらなかったので、物語をどう着地させるか、大きな山場をどこでどうやってつくるか、そうした構想が不在のままだった。

 そうして、これが大きな問題を引き起こす。


 着地点がブレるのだ。


 この物語がどんなラストを迎えるのか、作者にもわからないと言ってしまうとなんだかカッコいい風だが、現実は悲惨だ。

 作者の迷走に従って、物語も迷走していく。


 今回非常に残念だったのは、各話はわりかしよくできていたのに、「きちんと構成をもった10万字規模の作品を20日で書き上げる」という、作品とは別のところにある目標に引きずられ、作品そのものが歪んだ形になってしまったことだ。


 最初にコンセプトをしっかりと定め、簡単にでもプロットをつくっておけば、今回のような事態は避けられた。

 特におれは、これまでの作品ではわりとしっかりプロットをつくってきただけに、今回あらためてそれが無い中で進行することの不利を痛感した。


■理想は柔らかく壊れないプロット

 おれはこの章の最初に、これまでの作品で書いている途中に構成を変更することがあったと書いた。


 プロットは変更されるものだと考えたほうがいい。

 むしろ、変更を受け容れてなお破綻しないプロットが理想だ。


 だから、プロットはそうガチガチに固めなくてもいい。

 プロット作成に1か月もかける必要はない。

 パワポ1枚に収まるくらいの、全体の流れが描けていればそれでいい。


 余白があり、途中でいろいろ挿入できるほうがいい。

 書いているうちに思いついた変更点が、全体にどう影響するか、プロットを見直すことで把握できる形だとさらにいい。


 これに加えて、上で書いたように50字くらいでまとまったコンセプトを明文化しておく。


 この工程に、プラス3日間。

 このくらいの時間はかけたほうがいい。

 あるいはプロットがあれば、本体の執筆速度はさらに上がる可能性もある。


 もちろん、プロットとコンセプトが無い状態で書き始めてはいけないというわけじゃあない。

 今回も、おれの中でコンセプトが固まりはじめたのは、5話くらいまで書いたあとのことだ。


 だから、最初はなんとなくで、5話くらい書いてみてから、この工程を挟み込んでもいいだろう。

 とにかく重要なのは、この工程にしっかり時間を使うこと。

 そして、そのための時間を用意しておくことだ。


 今回はプロットとコンセプトの話をしたが、コンセプトは物語を書く以外のところでも役に立つ。次回は人に読ませる方法について書こうと思う。

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