第247話 第一発見者の権利
「副隊長、副隊長っ!」
この期に及んで、背後から投げかけられる、
バウルに
しかし、その慌てふためく様子が、結局バウルの心を
「だーかーらー、うるせぇっつってんだろぉ! これから
視線は洞窟に向けたまま。
バウルは顔を少しだけ横へ向けると、背後にいる部下を叱り飛ばした。
「……
「
部下とは違う人物の声に、思わず声のした方へと振り返るバウル。
「バウル様、何ぞ
バウルの肩越し、いや、何だったら彼と寄り添う様な格好で、一緒に洞窟を眺めているその男。
「どわぁっ! エエエ、
「いやいや、どうしてと言われましても。何やら外が騒がしいので、様子を見に出て参りやしただけで」
依然バウルの肩越しに周囲を見回し、一体何が起きたのかと不思議そうな顔をしている。
「どう言う事だよ! お
「はい、おりましたけど?」
両目を大きく見開き、とぼけた表情のエニアス。ちょっぴりカワイイ。
「ななな、何してやがったんだよ。こんな洞窟で。お
「悪さと申されましても……って、あぁ……」
急に得心したかの様に、手のひらをポン!
「バウルの旦那ぁ、嫌ですよっ、私がここで
急にニヤニヤとした笑いを返すエニアス。
「ななな、なんだとぉ、コイツ、何だとぉ。いやいやいや、そうじゃねぇよっ、何言ってやがんだよホントにコイツはもぉ、ホントにもぉ!」
突然、落ち着きが無くなるバウル。
「ははは、まぁそれは冗談として、悪さだなんて
そんな慌てふためくバウルとは対照的に、時折笑顔を浮かべながら、淡々と事情を説明するエニアス。そんな彼には、大人の余裕さえ感じられる。
「あっ……あぁ、そう、そう言う事……」
そんなエニアスの反応にすっかり毒気を抜かれ、一体自分が何に対して怒っていたのかすら分らなくなってしまう。
ただ、ここで引き下がってしまっては、元も子も無い。
「おっ、お
「とんでもない。何も隠し事なんて……。まぁ、あえて申し上げれば、久しぶりにこの洞窟へと足を運んだんでやすが、
「あぁ、そうかい。獣人の娘をねぇ……って、そそそ、ソレだよそれ。って言うか、本当に隠さねぇんだな。お
「へぇ、先程から申し上げました通り、バウルの旦那に隠し事なんて致しやせんよ」
そう言いながら、ニッコリとほほ笑むエニアス。
「そっ、そうかぁ。うん、まぁな。うんうん。それならな。うん。それなら、話は早ぇ。さっそくその獣人、俺に引き渡してくれや」
そんな気恥ずかしさもあってか、エニアスとは視線を合わすことなく、強引に話を進めようとするバウル。
「……」
「ん? なんだ、どうした? 急に黙り込みやがって、嫌とは言わせねぇぞ」
「あぁ、いや、嫌と言うかですね。
彼はそう言うなり、自身の
ただ、時折、チラ、チラッ、とバウルの様子を探っている様でもある。
「なっ何を、エニアス! お
「えぇ、もちろん。私が最初に
真顔で即答。
「あっがっ、うぅぅむ……」
あまりの反応の速さに、次の言葉が出てこない。
「って事で、いくらバウルの旦那とは言え、折角の金づるを『はい、そうですか』とお渡しする訳にゃあ、参りやせん。そんな事しようもんなら、私も
さも当然、とでも言わんばかりだ。
流石にそれを認めてしまっては、バウルとしても立場が無い。
とりあえず、虎の威を借りる方向で脅してみる事に。
「って事ぁ何か? エニアス。
「おっとバウルの旦那。争いごとは
貸した、貸さないの
まるで無法地帯の様なこの世界においても、実はしっかりとした法の裁きが行われているのである。
それを取り仕切るのは、現代日本同様、裁判所。
この裁判所。一級市民であれば、誰でも訴え出る事が可能である。
しかも裁判の内容は、これまた一級市民であれば、誰でも傍聴する事が可能なのだ。
娯楽が特別充実した世界ではもちろん無い。
それ故なのだろう。『下世話な裁判』の傍聴は、かなり人気の高い娯楽の一つとして市民に受け入れられている。
例えば今回の様に、たかが子供奴隷一人の所有権争いに、一介の市民がマロネイア家の人間を訴えた……と言う事にでもなれば、口さがないエレトリア市民達の格好のゴシップネタになるのは間違い無い。
もしそうなった時。一体どちらに
この世界、持てる者は、持たざる者に
「コイツぁ、楽しい裁判になりそうで……へへへ」
勝ち誇った様に、ニヤリと笑うエニアス。
「うっ、うぅぅむ……」
もしそんな事にでもなろうものなら……。
一体どの様な厄災が自身に降りかかるのか? ぐらいの事は、容易に想像が出来てしまう。
そんなエニアスに言いくるめられ、絶句状態のバウルの後ろから、新たな声が聞こえて来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます