第229話 私が彼女よ!(Ⅱ)

「大体さぁ、初めてのデートがコミケって、どうなのよっ!」



「どうなの? って言われても……ねぇ……」


(そんな風に聞かれても困るのよ。その計画を立てたのは、何を隠そう、わたくしなんですから。何とも言いづらいわよ。と言うより、何なの、この、どうして私にばかり絡んで来るの? 私、別にあなたの友達では無くってよっ!)



「あんなに広い所を歩かされてさぁ、ヒールが折れるは、心まで折れたわよ! あたしのフェラガモどーしてくれんのよ! って話よっ」



「あぁ……まぁねぇ」


(実はコミケの会場で、無理やり靴に細工さいくしたなんて、とても言えないわね。それに、同じ靴好きとしては、確かにヒールが折れた時の気持ちも分からないでは無いわ。仕方ないわねぇ、今度私がご贔屓にしているルブタンの靴、プレゼントしてあげようかしら)



「それによっ! 夏の真っ昼間に、何が悲しくて炎天下の『ランド』なんて、まわらなくちゃいけないのよっ!」



「あぁ、それは確かにねぇ……」


わたくしもあれは、ちょっとマズかったなぁと思っているのよ。実際に熱中症一歩手前で医務室に担ぎ込まれたエキストラの方もいたのよね。あれは本当に申し訳無い事をしたわ)



「そんでもって、次はゲームショウに行こう! って言うじゃない? あぁ言う所はデブとハゲとメガネの巣窟そうくつなのよっ! いったい、私にどうしろって言うのよっ」



「そうね、確かにそうね。大変だったわねぇ」


(悪かったわよ。でも、そんな事言ったって、次の作戦の布石ふせきだったんだもの、仕方が無いでしょ? そのお陰で、皇子様のこのみを知る事が出来たんでしょ。逆に感謝して欲しい所よ。こんな、敵に塩を送る様な事、ホントはしたくは無かったんですからねっ)



「しかもよぉ、次の飲み会でさぁ。めっちゃ酔いつぶれた挙句あげく、わわわ、私の……」



「私の……?」


(確か、皇子様が転びそうになって、抱き付いたのよね?)



「慶太くんったら、私のしりを撫でたのよぉー!」



「えーっ!!」


「みみみ、皇子様が、貴女あなたしりをっ! しりを撫でたですってぇ!」



「えぇ? 何々? しりがどうしたって? 誰のしりがどうした?」



「なになに? しりが何ぃ?」



 はいはいはい。ダニー! 声が大きかった様ですね。


 酔っ払ったアルねぇが、『しり』と言うキーワードに引っかかって来ましたよ。


 合わせて、一緒に楽しく歌ってた、リーちゃんまで参入です。


 これは、更に混沌こんとんとして参りました。



しりが何? どう言う事? どう言う事?」



 あたー。やばいです。美穂ちゃんまで参入して来ました。


 流石に自分の息子が彼女のしりを撫でた話は、少々マズいのでは無いでしょうか?



美穂姉様みほねぇさまぁ、聞いて下さいよぉ! 私、慶太くんに、尻をでられたんですぅ。でも、良いんですよ。だって、私、慶太くんのなんですから。尻と言わず、胸と言わず、どこでもでてもらって構わないんですよ?」



 あたー。


 美紗ちゃん。完全に酔っぱらってます。


 慶太にーちゃんの醜態しゅうたいについて、完全に暴露ばくろ状態です。


 かぁぁ、これは母親にとって、かなり厳しい攻撃かぁ?



「いやぁん、そう? 美紗ちゃんも撫でられたのぉ? 私も慶一郎さんにでられた事あるわよぉ!」



 あたー。天然です。


 このに及んで、美穂ちゃんの天然が炸裂さくれつしています。


 そりゃそうでしょうとも、美穂ちゃん、慶一郎さんに撫でられてるでしょうとも。


 だって、あなた、慶一郎さんの奥さんでしょ!


 しかも、息子の彼女と、そこをきそい合ってどうするのっ!?



「なっ、なーに言ってるんですかぁ。貧相ひんそうしりの一つや二つ。皇子様に撫でてもらえただけでも、良かったじゃないですかぁ。全然驚く事じゃ無いでしょ?」



 あらあら、リーちゃん。言葉にとげがありますよ。


 まぁ、リーちゃんはその辺りについては寛容なので、撫でた事自体はどうでも良さそうですけど、貧相ひんそうは止めましょうよ。貧相ひんそうは。



「あっ、貴女あなたねぇ。ちょっと若くて、ムチムチしてるからって、そんな言い方無いでしょ!」



 えぇ、そう思いますよ。リーちゃん、それはダメですよ。



「えぇ、それじゃあ、何を怒ってるんですかぁ? まぁ、私の場合は、お着替えを手伝った時に、ぎゅーって、抱き締められてますからねぇ。まぁ、尻を撫でた程度と一緒にされては困るって話ですよぉ!」



 うぉーっと! リーちゃんまで、美穂ちゃんお母さんの前で暴露ばくろだー! 慶太にーちゃんの面目めんもく丸つぶれっ! 完全に暴露ばくろ合戦になって来たぞー! って言うか、まだ会って数日のリーちゃんに手を出すたぁ、慶太にーちゃんヤルなぁ。さすがに東京の大学に通ってるからなのかぁ? 都会者になっちまったのかぁー?



「まっ、マジなの? 慶太くん、私と言う彼女が居るにも関わらず、こんな小娘に『ぎゅー』したって言うの? って言うより、さっきから気になってたんだけど、『ミコ様』ってなに? 慶太くんのあだ名なの? リングネームなの? 源氏名げんじななの? 一体、なんなの? 」



「あぁ、分かって無いなー。美紗ちゃんは元カノさんなんですよぉ。今カノは、わ・た・し! うふふ」



「あがっ……あがががっ」



 あたー! リーちゃん、現役彼女として満面の笑みを展開中! これは凄まじい攻撃だぁ! 美紗ちゃん完全に白目になってる。黒目どっか行っちゃってるっ! しかも、『ミコ様』のくだりは、完全にスルー。これは今カノとして、絶対に教える訳には行かないと言う強い想いがあるに違いないっ!

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