第158.リーティアのお団子

「はうはうはう!」



 あぁ、あいらしい……。


 この娘、何言っちゃってるの? もうっ! 「今来た所」って、そりゃあ、今来た所でしょうとも。


 俺は自分の失態ことは棚に上げ、リーティアが柱の陰で、モジモジしている様子をゆっくりとでてみる。



 はぁぁぁ。リーティアったら、髪は一度降ろしてからアップにして来たんだぁ。


 それは、昼間の様に編み込んだ形の髪型じゃなくって、一回全部降ろした後に、簡単に頭の後ろでお団子に結わえ直したって感じだね。


 って言うかさぁ、あれって、どうなってるのかなぁ。めっちゃ不思議だと思わない? ほら、彼女を見てごらんよ。彼女の髪のお団子って、なんだかかんざしみたいなの一本で止まってるっぽい様に見えるんだけど。だって、物理的に考えてみても、バラバラの髪の毛がどうして『一本の棒』でくっつくのか? って話ですよ。えぇ、全く想像できません。何? あの方法も、小学校の時に男子連中が『アホの子』になって運動場でサッカーしてる間に、保険のちょっとエチチな先生が教えてくれるって言うの? マジ? そう言う事なの? もしそうなんだったら仕方無いけど。もう、そのぐらいじゃないと、とてもあの理由が説明出来ませんよ。えぇ、魔法です。完全に魔法。って事はさ、あの一本を抜くと、『スルスル』って、髪の毛が解ける事になるって事でしょ。はぁぁぁ。はうはうはう! もう、その瞬間が大好きです。もうやめられません。これに対抗できるとするならば、某メジャー漫画のルパ〇三世に出て来る峰不〇子が、ピッチピチのライダースーツに身を包み、バイクを止めた後に、やおらヘルメット脱ぐシーン。もう、あれですよ。あれっ! しかも、しかもですよ。あのライダースーツが曲者で、ぱっつんぱっつんの胸の所のファスナーをおへそあたりまで下げちゃう訳だぁ。うひょー。どうしてくれよう。もう、どうしてくれよう。って言うか、あのボンデージの下に、何にも着て無いってのも考えたら凄い事だよね。だって、まんま裸なんだよ。もう、何から何まで『汗だく』『ツユだく』『汁だく』なんだよっ。はうはうはうっ! もう、背筋にビビビッって電流が走りますよね。えぇ、走りますとも。なんだったら、三十人ぐらいの童貞を集めてあのシーンを見せてやれば、都内の一般的な四人家族のご家庭一世帯当たりの約一日分の消費電力が発電出来るんじゃないかと思ったり、思わなかったり。



 って言うか、それにしても、耳元から見え隠れする『後れ毛』が艶めかしい。


 やぶあい。


 童貞のみならず一般男性であれば約92.34%以上の確率で『好物』もしくは『大好物』に分類される髪型じゃないかぁ。


 そうだよね。これから一緒にお風呂に入るのに、やっぱり髪がお湯に浸かっちゃうって言うのは、どことなく風情が無いものね。湯舟のなかで、ほんわり桜色に染めた頬とうなじ……そこで、少し恥じらいながら、俺に背を向ける様にして、そっと濡れた手でうなじの後れ毛を直す彼女……。


 いやぁぁぁ。そんなんされたら、俺、どうしよう。って言うか、俺、どうしたら良いと思う? 確実にそんなんされたら、俺、絶対我慢できないよっ! 速攻で彼女の背中から『ぎゅっ!』って、そう、『ぎゅ~っ!』って抱き絞めてしまうに決まってる。そうなると、あの華奢な彼女の体だもの。俺の両腕は彼女の胸の前で丁度クロスされ……はうっ!?


 と、ここで俺は、とある重要な事に気が付いた。


 良く考えたら、俺は今日、二回も彼女を抱いている。


 しかし、に、その両方ともに彼女を正面から抱きすくめる様な形に終始しているんだ。


 と言う事は『今回が俺の人生の中で、初めて女性を背後から抱き締める』事になるのは明白あきらかだ。


 マズいっ!


 非常にマズいっ!


 改めて、俺の脳内ライブラリを検索しても、そう言う意味では、女性を背後から抱き締めると言うシチュエーションについてのシミュレート結果が、驚く程に整備されていない事に今更ながらに気が付いた。


 何しろ、『背後から女性を抱き絞める』カテゴリで脳内データベースを検索しても、出て来るのは数点のガールズコミックしか検索対象に引っかかって来ない。


 くーっ痛恨っ!


 確かにこのジャンルについては、知識量が圧倒的に不足している。確かに、少年誌や、青年誌等の媒体についても、もう少しカテゴリを広げれば検索対象となるものがあるにはある。しかし、少年誌の場合は、どちらかと言うと、『良い感じ』で彼女が泣いている所を背後からそっと抱き締めて彼女を慰める……的なシーンが殆どで、ましてや浴槽の中で彼女を抱き絞める様な、完全R18的な物は収録されていない。では、今度は青年誌ではどうだろう。……はうはうはう! これはヤバい。青年誌の方は一足飛びに大変な事態になっているのが殆どだ。もう、これは『背後』では無く、完全に『バック』だっ! えっ? 何が『バック』だって? 何々? 英語に直しただけだろう? だって?


 はぁぁ。これだから、女性と一緒に風呂にさえ入った事の無い『一人でお風呂に入ってそんな長い時間アンタ一体何しているの? って叱られた事がある童貞』諸氏は御し難いっ!


 もう、いきなりその結果はR18のラインを軽く飛び越え、その跳躍力は、往年のセルゲイ・ブブカを凌駕する躍動感とスピード感で事態が急展開する。流石にそんな事を知り合って二日目の彼女の出来る訳が無い。って言うか、出来るヤツがいたら一度お目にかかってみたいよっ! うっ! でもやっぱり止めておこう。そう言うヤツに限って、リア充なイケメンに決まってる。そんなヤツとは絶対に友達にはなれないからな。もう、これまでに過ごして来た時間の内容に差がありすぎて、会話が全くかみ合わない事だろう。はぁぁ。やっぱり俺の親友は『正義』だけなんだよなぁ。あぁ、思い返せば最初の電話をいきなり切ってから、もう九ケ月ぐらい経った様な気がするけど、実際問題、一昨日おとといの事なんだよなぁ……。まぁ、日本に帰ったら、一回謝っておくとするかぁ。


 ……ん? 何の話だ?

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