第91話 訓練の成果(前編)
「ヤマス!」
「「「ヤマス!!」」」
「全能神様へ、そして皇子様へ!」
「「「乾杯!」」」
村長の掛け声に合わせて、大宴会がスタートした。
手筈はすでにダモン爺さんの方から神殿の料理長の方に伝わっていたらしく、オードブルなどを満載した大きなお盆を持つ沢山の侍女達が、神殿の奥の方から列をなしてやってくる。
実際問題、料理が出揃う前に宴会を始めちゃった感じだなぁ。まぁ、村人的には酒さえ飲めれば全てOKなんだろう。
いつの間にか、広場の中央には仮設のテーブルや椅子、日よけのターフなどが守衛のメンバーを中心に設営されてるな。ホント手際良いなぁ。
もう、その後はとにかくどんちゃん騒ぎだ。
もともと、ラテン系の血でも流れているのか? ――ん? そう言えば、この人たちエルフだよね。エルフってラテン系なの?―― 結構なハイテンションで酒を酌み交わしているなぁ。
出て来るお酒はワインや
おいおいっ! そこそこ子供まで飲んでるぞぉ。大丈夫かこれ?
「ねぇリーティア、この国って何歳から『お酒』飲んでいいんだっけ?」
疑問に思った俺は、右隣りに座っているリーティアの方へ、軽く耳打ちする様に聞いてみた。
すると。
「うふふっ! ……そう
(翻訳:そうですね。別に決まりは無いのですが、大人になればいいのでは無いかと思います。うふふ)
おいおいおい、いつの間にっ! リーティアもう酔っぱらってるじゃないかぁ!
「ねっねぇ、あのね。ちょっと聞いてリーティア。……一体どれだけ飲んだの?」
俺は子供を諭す様な言い方で、リーティアに確認。
何しろ酔っ払いはどういう反応をするのか分からないからな。ちょっと下手に出るぐらいで丁度良い。
そして、ざっと見た感じだけど、頭のてっぺんからつま先まで既に『真っ赤っか』の状態だ。この短時間にいったいどれだけ飲んだんだぁ? この娘?
「えへっ? まだ
(翻訳:え? まだ全然飲んでませんよ。
リーティアは自分の顔の前で親指と人差し指で1センチぐらいの隙間を作り、そこの間から覗き込む様に俺を見る。
※全然関係無いけどこのポーズ。エルフの間で流行っているのかもしれないけど、そんな事を主人公が知る由もない。
リーティアの手には小さなコップが握らていて、その中には甘い香りのするミードが半分ほど残されていた。どうやら本当にミードを半分飲んだだけで、この状態になったみたいだぞぉ。
俺の心配を他所に、ニコニコしながらコップに残ったミードを一気に小さな口へと流し込むリーティア。
「あっ! あぁぁぁ、本当に大丈夫? リーティア」
――ゴクゴクゴクッ
「……ぱぁぁぁ」
「……お酒っ
(翻訳:お酒って、意外に美味しいものなのですね。うふふ)
ダメだこりゃ。この娘は酒が弱い。しかも笑い上戸だ。
更にこのセリフから考えると、今日初めて飲んだな……これ。おいおいおい、誰が飲ませたんだよっ!
リーティアの肩越しに後ろを見ると、甲斐甲斐しくリーティアに酒を進めている侍女が一人。
あれ? あの娘。リーティアの侍女じゃ無いなぁ?
俺は思わず、リーティアの後ろにいる侍女に話し掛けてみたんだ。
「……あっあの、ごめんね。リーティアはどうもお酒が弱いみたいだから、これ以上飲ませるのはちょっと止めてあげてもらえるかなぁ?」
――おやぁ?
その侍女をよくよく見てみると、なんだかダニエラさんの所にいた侍女の様な気が……。
「はっ!」
俺は左隣に座るダニエラさんの方へと振り返る。
すると、ダニエラさんは澄ました顔で、侍女に水で薄めたワインを自分のグラスに注がせていたのさ。
「はい。何か?」
ダニエラさんはそれこそ水でも飲む様に、大きな木製のコップに注がれたワインを軽々と飲み干している。
「あのさぁ、ダニエラさん。あのリーティアの後ろにいる侍女の娘って、ダニエラさんの所の娘じゃない?」
一応、確認の為に聞いては見たけど、まぁ聞くまでも無さそうだな。
ダニエラさんは、ゆっくりと俺の方を向いて『それが何か?』的な顔をしている。
やっぱりかっ!
「先ほど守衛のダモンから話を聞いた所、リーティアの侍女が自室に戻っているとの事でしたので、私の侍女にリーティアのお世話をさせているのです。何も問題はございません」
それだけを告げると、また正面を向いて侍女に注がれた
「いやぁ、リーティアはかなり『お酒』が弱そうだから、あんまり飲ませるのはちょっとどうかなぁと思ってさぁ」
折角手配してくれたダニエラさんにも気遣いながら、何とか飲ませるのを中止する方向に持って行こうとする俺。
ダニエラさんはもう一度俺の方へ振り向くと、俺の背後で飲まされるだけ飲まされて、高らかに笑い声をあげているリーティを『チラッ』っと確認。
「リーティアも折角の機会でしたので、羽目を外したかったのでしょう。今日ぐらいは飲ませてあげましょう」
うーん、そうなのかなぁ。でもこれ以上飲ませたらまずそうだけどなぁ。
「でもダニエラさん、第一奴隷のリーティアがあの状態だと、俺も食事が食べられないしぃ……」
何とか理由をこじ付けようと、自分の食事を引き合いに出してみるけど……これが失敗だった。
急にダニエラさんの瞳が『キラーン!』と輝くのを俺は見逃さない。
「あぁぁ! そうでした。第一奴隷のリーティアがいないと、皇子様はお食事を進める事ができないのでした! このダニエラともあろうものが一生の不覚っ。ついつい、妹の様に可愛がっているリーティアの為をと思って、侍女にはお酒を勧める様指示していた事が、こんな風に裏目に出るとはぁぁ……」
「はぁぁぁぁ……」
ダニエラさんは一呼吸分、結構な間を使ってため息を付く。
そんなダニエラさんの後ろからは、三人の侍女たちが、
「ダニエラ様は悪くございません」だの
「お酒に弱いリーティア様が悪いのです」だの
「心のお優しいダニエラ様」だの……。
代わる代わるフォローの言葉を投げ掛けて来る。
侍女たちに励まされたダニエラさんも、少し涙ぐみながら、掛けられた言葉一つ一つに大きく
「はっ! こんな事をしている場合ではございませんでした。第一奴隷がいない今、皇子様のお食事のお世話をするのは、誰あろう、大司教であり、神に仕える私のお役目にございます。それではその任務、つつがなく務めさせていただきますっ!」
ダニエラさんは後ろに控える侍女に目配せすると、いつの間にかリーティアの前に置いてあった大きなオードブルのお皿が、ダニエラさんの前に運ばれて来たんだ。
くっ! 嵌められたっ! ダニエラさん、段取り良すぎだよっ!
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