第82話 人間の戦い方(1)
「……で、お前の名前は?」
魔獣からの攻撃を受けて立つべく、ファランクスの内側で身構える兵士達。
その中でも、通常は最も非力な兵士が陣取る列の左端。
その場所に蹲る二人の男は、片膝を立て、全面へと押し出した盾の影に隠れる様に、そっとその身を潜めていた。
そんな中、
「おっ俺は、トビーです。よろしくお願いします」
「おぉ、よろしくなっ! ところでお前、何で槍を二本も持ってるんだ?」
テオドロスは
「これは……、俺の同期入隊の
そう尋ねられた
「へぇぇ。でっ、そのバルテは何処行ったんだ?」
隣同士のこの距離だ。
「……まっ、魔獣に食われて……」
「そうか、そいつは残念だったなぁ」
あまり興味も無さそうに、おざなりの返事を返すテオドロス。
自分から少年に聞くだけ聞いておきながら、全く
「はっはっは。まぁ、くよくよしてたって始まらねぇ。俺達だって、いつ魔獣の腹の中に納まるか、分かったもんじゃねぇからなぁ」
それだけで無く、呆気らかんと笑い飛ばす始末だ。
「んんっ?
テオドロスは、槍の先端に赤黒く付着している血を、目ざとく見つけた。
「
少年は、仲間の死よりも、槍の方へと興味を示すテオドロスに、少し不快な表情を向けてみるが、テオドロスはそんな事を全く気にしない。
「ふーん、そうかい。……で、どうだい、その槍、俺に預けてみねぇか?」
しかも、少年の説明を遮る形で、話を被せて来る。
「……えっ?」
あまりの突飛な提案に、自身の抱いていた不快感を一瞬忘れ、思わずもう一度聞き返してしまう
「いや、何、魔獣に一矢も報いてねぇってんじゃあ、
テオドロスは、
「俺がこの槍で、魔獣に一泡吹かせてやるよっ」
月明かりに照らし出される短槍は、
「……」
親友の槍を無理やり横取られ、納得の行かないトビー少年。
「どうだい? 悪い話じゃねぇだろう?」
テオドロスは、少年の方へは見向きもせず、諸刃の矛先を月明かりに翳しながら、槍の曲がり具合等を確かめている様だ。
「……」
それでも少年は無言だ。
「おめぇが持ってたからって、何かの役に立つとも思えねぇしなぁ」
「まぁ、その前に、俺達全員、魔獣の腹の中で、そのバルテとやらと、ご対面するかもしんねぇけどな。だぁはっはっはっはっ」
テオドロスの変に高いテンションに、一瞬神経を逆なでされつつも、この男の暴言の中にも真実があると、思い直すトビー。確かに自分がこの槍を持っていたとしても、感傷に浸る事はあれど、
「……」
「……そっそれじゃあ、……お願いしても、良いですか? これで、
真剣な表情で、テオドロスの黒々とした眼を見据える少年。彼の表情からも、その真剣な気持ちが伝わって来る。
「……へへっ。任せとけよっ。悪い様にはしねぇからよぉ」
そんな
「おっと、やべぇ。
テオドロスは、後方で仁王立ちしているサロスを一瞥すると、盾の向こう、数十メートル先に控える魔獣の方へと視線を移す。
その隣、テオドロスの横で片膝を立て、蹲る
『バルテ……。さっきは守ってやれなくて、本当にごめんなっ。俺、今、自分の都合の良い事しか言えねぇんだけど。……頼むっ。俺に力を貸してくれっ!』
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