第67話 奴隷妾専用館での出来事
「イリニ。今日はこちらの館に泊まるぞ」
先ほどの騒動も何処へやら。刺客の返り血は併設されている浴槽の方ですっかり落とし、自身は絹で織られたゆったりとしたトゥニカを身に纏い、自室のソファーで寛いだ状態のアゲロス。
館の一階にある庭園を望む一番良い部屋を、自分専用の部屋として確保してあるのだ。
もともと表向きには使用人用の館となってはいるのだが、実質この館は、アゲロスの奴隷妾専用の館となっている。
もちろん、正妻や、順位を持つ正式な妾は、この広大な敷地の中に、それぞれの屋敷を与えられており、まだその序列には加われない妾予備軍が、メイドと言う形でここに暮らしていると言う訳だ。
正妻の屋敷に泊まる事など殆ど無く、年の大半を妾用の屋敷を渡り歩いているアゲロスではあったが、こうやって新しい娘を手に入れた時など、気が向いた時には、この屋敷にも泊まる事もあるのだ。
「……イリニ。今日の夜伽は、あの姉妹にしてみるか」
寝室前に設けられた応接室のソファーで横柄に横になりながら、三名の美人メイドにマッサージを受けているアゲロス。そのままの姿勢で、傍に控える家政婦長のイリニに話しかける。
「はうっ……」「はあっ……」
アゲロスにマッサージを施すメイドからは、時折桃色の溜息が聞こえて来る。よく見ると、アゲロスの右手がマッサージを施すメイドの股間に伸びている様だ。
その様な状況にも関わらず、眉尻一つ動かす事無く家政婦長のイリニはアゲロスの質問に答える。
「アゲロス様。大変申し訳ございませんが、あの二人については、まだ成人の洗礼を受けておりません。恐らく南国大陸育ちの為、洗礼が遅れていたのでしょう。まぁ、姉の方は既に15歳ですが、妹の方はまだ13歳と年若く、洗礼を受けるには今しばらくお時間が必要かと……」
家政婦長は深々とお辞儀をしながら娘の状況を説明する。
「ふぅぅむ。それは仕方が無い事よのぉ。戒律がこうも厳しいものとはなぁ。ワシもアレクシア様に帰依する身。戒律は守らねばならぬからのぉ」
彼の信仰する戦いの神は、未成年の淫行を認めていない。もし戒律を破れば、洗礼の際の誓約を違える事となり、良くて身分を奴隷に落とされるか、悪ければ死を賜りかねない。
もちろん、手慰み程度であれば、問題は無いのだろうが、信仰心の篤いアゲロスは、その戒律を厳に守っているのだ。
「……はぁあぁっっ!」
アゲロスをマッサージしていた娘の一人がひときわ大きな叫び声をあげると、そのまま床へとへたり込んでしまう。
「ふぅぅむ。困った事よのぉ……」
アゲロスは、床にへたり込む少女を見る事すら無く、今日の夜伽の相手に思いを馳せている。
イリニは早速壁際に待機するメイド達へと目配せをすると、数名のメイドがへたり込んだメイドを引きずる様に部屋の外へと運び出し、新たなメイドがマッサージに参加するのだ。
新たに参加した少女は、これまでの様子を壁際で見ていた為だろうか、既に真っ赤な顔をしている状態だ。
「……ひゃんっ!」
新しく加わった少女のふとももに手を伸ばしつつ、アゲロスはイリニへと次の質問を投げかける。
「それでは、タロスにやろうとした娘はどうだ。例の姉妹の姉の方の洗礼が終わるまで、あの娘で我慢するとしよう。その後で娘はタロスに下賜すればよかろう。生娘では無くなるが、そこは今回の事もあるからな。そのぐらいの我慢はしてもらうとしよう」
「……どう思う? イリニ」
アゲロスは自身の右手の動きを止める事なく、平然とイリニへ確認を取る。
「アゲロス様のご指摘の通りかと。早速例の娘を呼んで参ります。いえ、お待たせは致しません。既にそうおっしゃられるものと思いまして、準備の方は進めてございます」
「…………そうか、そうか。さすがはイリニ。頼りになるのぉ。さて、この娘が落ちるのが早いか、その娘が届くのが早いか。競争だぞっ」
アゲロスは下卑た笑顔を浮かべながら、更に自身の右手に力を込める。
「あらあら、これは大変でございます。それでは急いで連れて参ります」
イリニは珍しく笑顔となって、そそくさと使用人用の扉から外へ出た。そして、扉の向こうから部屋の中に深々とお辞儀をした後、そっとドアを閉じようとした時。
「……くっはぁうっ、あぁっっ!」
閉まる扉の向こうから、先ほど変わったばかりの少女の奇声が聞こえて来たのだ。
「……ふぅぅ。近頃の若い娘ときたら、もう少し辛抱と言うものを覚えて欲しいものだわね」
まだ十分な人数が部屋の中には残っているとは言え、余り時間が無い事を悟ったイリニは、半ば駆け出す様に、例の娘が待機する部屋の方へと急ぐのだった。
◆◇◆◇◆◇
「おいっ、ひでぇなぁこれ」
ルーカス少年が駆け足で屋敷の方へと到着するのと同時に、屋敷の裏口の方から、二名の大柄な男達が大きな麻袋の前後を抱えて外に出て来る所であった。
あやうくこの男達と鉢合わせする所だったルーカスは、咄嗟の判断で近くの茂みへと身を潜り込ませる。
男達は、自身のトゥニカを腿のあたりまでたしく上げ、上半身は既に裸の状態だ。
「……しっかし勿体ねぇ話だよなぁ。この娘なんざぁ、顔も体も一級品だぁ。なぁんでこんなご無体な事すんのかねぇ」
その男は、同じ麻袋を持つ相方の方へと話し掛けるが、相方の方は口をつぐんだまま何も返事をしようともしない。
「……なぁ、お前もそう思うだろう?」
何度話しかけても、返事をしない相方に業を煮やしたのか、更に追い打ちで質問を投げかける男。
話を振られた男は、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、小声で相棒を叱り飛ばす。
「馬鹿野郎っ! めったな事を言うもんじゃねぇ!ここであった事は、何も見てねぇ! 何も聞いてねぇ! おめぇも長生きしたかったら、この約束は絶対に守るこったなっ!」
叱り飛ばした男は、麻袋を勝手口のドアの横に横たえると、いそいそと屋敷の中へと戻って行った。
「……ちぇっ! ちょっとこっちが新入りだからって、先輩面しやがってぇ」
その男は腹いせに、麻袋に入ったナニかを思いっきり蹴り上げる。が、ふっとその麻袋をもう一度見下ろすと、何か考え込む様に眉根を寄せた。
「……まぁ、どうせ、もうプロピュライアの門を潜っちまった様なヤツだぁ。ちょっとぐらいお痛したって、罰はあたらねぇだろう。ゲッヘッヘッヘ」
そう呟いた男は、やおら麻袋から中の物を引きずり出すと、勝手口からは見えにくい草陰へと引っ張り込む。
「……おぉぉぉ、まだ新鮮だからなぁ。人肌の温もりが残ってらぁな。さて、頂きますよっとっ」
その男は右腕を失った女だった物に、自身の欲情をぶつけ始めたのだ。
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