5月6日(木) 広島市西区観音町にある立ち呑み店「角打ち ももや」で飲む。
広島市西区観音町にある立ち呑み店「角打ち ももや」で飲む。
週明けではないが、連休明けのフレッシュな体は「角打ち ももや」さんですっきりと飲む。
一杯目はアイリッシュウィスキーのカネマラ・ピーテッド・シングルモルトで、ボトルの緑の惹かれたこのお酒はほど良いピート感から甘く柔らかい味が広がっていく。
二杯目はノブ・クリークで、先ほどよりもはるかに強い樽感と口当たりがぶつかり、濃く薫り高いがいくぶんきつさもあり、辛さも含めると男らしい躯体だった。
あまり飲まないバーボンについての感想を大将に述べると、原酒であるグレーンの特徴とモルトの効果を含めた幅広い知識を教わり、スコッチのピートを追ってラベルの裏のモルトを見ていたが、今になって初めてグレーンの存在を知ることになった。
日本とスコットランドを比較した原酒の多様性と閉鎖性の扱いが会話に広がったので、名前は目にも耳にもしたことのある響・ジャパニーズハーモニーを飲んでみた。驚くほど静かな口当たりからクレッシェンドはゆるやかに膨らみ、鮮明で澄んでいるが、ブレンドの性質としての多様性が輝き、ピート感もほのかにあれば明るい樽感も蜜感もあり、柔らかでふくよかで、とても綺麗で品のある仕上がりとなっている。これはさすがに美味しい。しかし、クセを好む自分としては、上品な白ワインのように穏やかな鮮明となっていて、変態物に惹かれる性質の人からすれば、やや出来上がりすぎているともいえる。とはいえ、文句なしに美味しいウィスキーとして気品を持っている。
人を寄せつけないように香りを嗅いで、眉間に皺を寄せて味を見る時間は終わり、大将と女将とお話をしてから外に出る。
立て続けの三杯はやはり酔うので、母の日のプレゼントが届いたという知らせを朝の忙しい出勤前に聞いたので、夜に返しの電話をすれば、天満川の煌びやかな反映を見ながら楠木を香り、一向に止まない母親との会話を続けることになる。
実家の近所では熟年離婚があり、学者肌の認知症のおじさんが二日間昏睡になってから救急車に運ばれ、目を弱らした親戚の叔父さんは心臓も悪くなって背骨が曲がってきたなど、父親の酷くなる狂いも含めてなんら幸福はない。しかし歳をとる辛さと無情がただただブラックジョークとして母親の口からこぼれると笑い声があがるばかりで、ついつい映像文化ライブラリーの年齢層を口にすれば、木下惠介監督や岡田嘉子さんの好みを母親から初めて聞かされる。
子供の時はわからなかったが、大人になって両親のDNAを深く継いでいることに気づくことがある。たとえば実家にあった遠藤周作の本や、チェ・ゲバラの本についての話題などを意外に交わした時に、文学好みは間違いなく父親の性質だと知った事があった。そのように、旅行好きは知っていたが、映画や観劇好きも母親からの遺伝だったと夜の長電話に知らされる。そして毎回だが、単純と馬鹿さ加減、そして良く笑う脳天気な性格は母親で、神経質と癇癪、そして自身の病気好きは父親由来とも知らされる。
要するに、ブレンドウィスキーを飲んで酔った夜に、混ぜられて生まれた自分という存在のルーツに目が向いたというわけだ。味と表現には確固たる理由があり、その味わいは多様でありながら、一つ一つ樽の原酒が宿っていると、一時間近く終わらない母親の長話から教わったわけだ。
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