5月4日(火) 広島市安佐南区安東にある居酒屋「あさ菜ゆう菜」で飲んで食べる。

広島市安佐南区安東にある居酒屋「あさ菜ゆう菜」で飲んで食べる。


昨年か一昨年から続いている笑いの絶えない三人定例会があって、それにうってつけの「あさ菜ゆう菜」さんへ行ってきた。


アストラムラインに乗るのはアジア大会以来という希有な方をお連れして、メキシコのスピリッツにフライングした自分は酔いの程度に内心びくびくしながら、景色の良い窓とつい再会に盛り上がる会話で車内のルールを踏み外しそうになった。


今日はカウンターではなく座敷に座り、品数の多さに目を丸くすることなくそれぞれ欲しい料理を遠慮なく選んで注文した。


思ったよりも酔いが響いていたので、冷酒でちびりちびりかわしていこうと冨玲の生酛を注文すると、飲んでも飲んでも酒の銘柄を覚えないせいか、飲みの盛りにふさわしい度数のやや高い濃い味がやってくる。加水はせずに常温で口にすると、これが今の自分にぴったりだと顔がしわくちゃになる。


突き出しの豚汁は人参の風味が量感を持って残り、玉ねぎはしっとり、大根は染み込みすぎず、濃さにだらけない素材の爽やかさがあった。


ポテサラは玉ねぎの新鮮な涼しさに、和む玉子とハムの大きさが盛り盛りしていた。


わらびとこしあぶらの白和えは、ぬめりと苦味のそれぞれの味の芯が残り、柔らかい白さにまとわれながらナッツが滋味を足していて、落ち着いた春の味わいは目覚めの浮かれ気分ではなく、緑の落ち着き出した陽気に座って眺める心地だった。


地だこは、舌に触れる瞬間から疲労回復する酸味と香りで、角の立たない酢に含まれてぶつ切りのタコがとても白く美味しかった。


筍といか下足は、香りが見た目以上に鮮烈に放たれていて、角切りされた地下茎からの芽は水の含みに外の緑のペーストがスパイシーに絡まり、アボカド色のせいだろうか、タコシェルに包んで食べたら美味しそうだ、などと考えさせる風味の強さがあり、さりげなくいかの足があることで、滑らかな食感と風合いを広げて料理の階層が増えている。


行者にんにくと筍の水餃子は、ここでも木の芽がとても香り、単調な匂いではないにんにくは丸みを持った輪郭で奥につっこむような風味の広がりを持ち、筍の食感と肉の味にスープが混じり、包み物を好む人を小躍りさせる仕上がりだった。


その間に、疲労に垂れていた我が隣の人は、女将の塩むすびをフライングして注文すると、満面の笑みが5噛みして腹に入れ、独り占めに満悦して生気を取り戻すと、いつものごとく酔いの長広舌を始めだした。


古漬け白菜と羊の玉子とじは、白菜がとても良い味の重さを持ち、そこに軽やかな羊の風味と食感が加わり、優しい玉子とじが一緒になって体を温めてくれるので、一滴たりとも汁を残せないようにできていた。


間のつまみ兼デザートにバナナスパイシーケーキを食べると、ふんわりとした香辛料にバナナの甘さがほどよくまとまり、洋酒でなくても熱燗は喜んで受け入れてくれる。干いちじくと酒粕のチーズは、甘みとコクが重たくなく、飲みの一席の中に手仕事のような会話を生ませてくれる。


これでもやや食べたりなかったので、大きさに見合ったどっしり浸かったらっきょうを合間に挟み、山菜も贅沢な穴子の天ぷらと甘鯛の松笠揚げも注文する。衣にきっちり覆われた食材は揚げ物らしく風味の華を広げていて、ふっくら豊かな食感の太い一品に今日の食事に大きな満足を残してくれる。


そして残ったお酒に合わせてもらったアテは、とろとろしたゴーヤが油の旨味をたっぷり吸って苦みをほどよく残し、人参は黄色い組み合わせの良さでどんどん箸を進ませ、ぜんまいらしき山菜はいくぶんお品よく静かなたたずまいを持っていた。


最初に注文した冨玲の強さに怯んでいたので、熱燗と合わせるように飲み進め、写真に撮り忘れた新聞紙に包まれた酒、辨天娘、日置桜、山陰東郷、そして水滴石穿と飲みながら干し、酔いは壊れることなく閉店時間となる。


今日はカウンター席ではなかったので大将と女将だけでなく、隣にする常連さんとの出会いや会話は最後まで少なかったが、店を出る前に爆発したように近況の話で盛り上がる。器の大きさと懐だけでなく、会話の切り口切り交わしが並々ではない大将の闊達な声に、女将のちょっとした話の添えや塩むすびに騒ぐキッドへの愉快な返答など、ただ者ではない常連さんだけでなく、老若男女楽しそうに地元の人も集まる店の収容力は、今回も改めて知るところだった。


今夜の帰りは雨がなく、誰も明日に予定のない連休の定例会は始めから心持ちが軽く、愉快な気分で電車に乗り、眠気にうとうとした。それにしても、料理が本当に美味しく、酒の選択も的を得ていて、受け入れる会話と度量は桁外れに大きい。毎度のごとく「あさ菜ゆう菜」さんは本当に凄く良い店だ。

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