4月28日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイングマール・ベルイマン監督の「仮面/ペルソナ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイングマール・ベルイマン監督の「仮面/ペルソナ」を観る。


1966年 スウェーデン 82分 白黒 Blu-ray 日本語字幕


監督・脚本:イングマール・ベルイマン

撮影:スベン・ニクビスト

音楽:ラーシュ・ヨハン・ワーレ

出演:ビビ・アンデショーン、リブ・ウルマン、グンナール・ビョルンストランド、マルガレータ・クルーク


今日はウィキペディアでイングマール・ベルイマン監督を調べてしまったので、自分の感性による発見と誤謬の感想よりも、真偽の疑わしいソースに頼ったレビューに寄るようだ。とはいえ演出家としてのキャリアを知ると、演技に対しての偏執を画面から感じ取っていたのであながち間違ってはいなかったのだと思ってしまうから、一つの情報は他を除外して自分自身の判断を近視的に錯覚させる。


それにしても50本以上作品を残したという監督のまだ5本目の観賞でしかないというのに、難解さはより増してくる。


上映開始後に入場すると、エレクトラの役を稽古中に声が出なくなったという説明から映画に入る。十秒でも遅れていたら、ギリシャ悲劇に名を残す重要な人物を知ることなく、どうして声のない状態にあるのか知らないまま物語を観ることになった。


声の出ない有名な女優と看病する看護師による登場人物の限られた二面性の物語は、モノクロの画面と柔らかさよりも機械的な固さを感じる編集のせいか、神秘的な色合いが強くあった。長いカメラ回しを含めた演技に重点の置かれた映画作りともなっていて、声の出ない女優の代わりに看護師は喋るのだが、中盤にかけて官能小説のような暴露が強烈な印象を残し、これまで観てきた作品にも割と過激な性描写は含まれていたので、ここでは台詞による情景と興奮が想像力をかきたてていた。


声の出ない理由を疑う台詞が何度かあり、それを元に観るこちら側も疑っていると、現実世界での振る舞いを仮面として仮定し、もうそのような本心とはまるでかけ離れた自分を演じたくないが為に、声を出さずに閉じこもっている、などの疑いを口にされるものの、本人は声が出ないので実際のところはわからない。ところが医者の先生への手紙の内容には、本当に心が痛んでおり、静かな環境で療養できていると喜びを伝えている。そこには誰しもが持つ他者への観察眼も述べられており、それは別段珍しいことではなく、俳優だからこその冷徹な目線も加えられているのだが、盗み読みしたことによって二人の立場は変わっていき、その変化は同性愛と崇拝を含みつつそれぞれの女性に内面と外面が表れ、交差され、鏡のような演出がなされればアングルを変えてのリピートも展開され、わかりにくい作品ではあるのだが特定の場面ではむしろわかりやすく思えてしまうほど、安易に理解してはいけない防御作用を観る者に与えてくる。


とはいえ、この映画の作品名だけを素直に追えばいいのだろう。役を演じることに疲れたという俳優の心は、集大成と説明されていた「ファニーとアレクサンデル」の中でも登場人物に吐露されており、役柄と仮面、現実と虚構、嘘と真実、だけでなく、詩吟と沈黙、などの対比もついこしらえてしまいたくなる要素が含まれており、それは最初に観た「魔術師」から変わらない二面性と対照だとあらためて気づかされる。


技巧的な画面の効果なども取り入れており、ベトナム戦争での象徴的な焼身自殺や、強制収容所へと選別される手をあげた子供の写真などの挿入もコラージュとして強い刺激を持ち、心理的な音楽の使用と画面への張り付けを考えると、1966年という年代を古いとは思わせない今にも多大な影響を残す革新性があり、むしろ2021年の現代に作られたと言われても納得できるほどの先進性と普遍性が表れている。


そしてなんといっても演技へのこだわりが強くあり、そこに舞台でいう照明効果と同じ採光の色合いが厳密に映し出され、映画としての時間軸の自由も編集に加えられているので、生み出された他の監督にはない独特なリズムと空気感は、物理的よりも、むしろ観念としての面白さが理解よりも感覚として迫ってくるようだ。


もはや簡単も難しいもわからないほど混乱させられる時もあるが、基本は堅固にあり、構図、演技、編集、音楽の使用など、舞台でも映画でも共通する要素への質の高さは疑えないものとなっている。

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