前のエピソード――３月２９日（月）広島市中区東白島町でプレオープンしている「ドルチェ・エ・サラート・ダル・ポリポ」のドルチェを食べる。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島市民劇場２０２１年３・４月例会 NLTプロデュース公演『しあわせの雨傘』」を観る。

作：ピエール・バリエ、ジャン＝ピエール・クレディ

演出：鵜山仁

翻訳：佐藤康

美術：乗峯雅寛

照明：古宮俊昭

音響：小林史

衣裳：倉岡智一

出演：賀来千香子、井上純一、永島敏行、遠野なぎこ、小泉駿也、吉越千帆

ミュージカルの観劇が続いていたので、今夜は演劇らしく、微笑ましい茶番に浸ることができた。語弊を生む言葉をつい使いたくなるほど、賀来千香子さんが茶目っ気溢れる演技で舞台の注目を惹き続けていた。

和傘と異なる古風な雨傘は西洋らしくヴォールトの形状をしており、幕開けから深い青に染まるステンドガラスのような太い枠組が光り、舞台に明かりが灯ると二階に上がる階段と大きな窓ガラスを半円がそれぞれ縁取っている。ブルジョワジーをそっくり映す気品ある舞台装置にプロジェクションマッピングの強烈な効果が映されると、細かい彩りを経て純粋な演劇が始まる。

意想外な演出効果は胸像が光るくらいで、それ以降は最新映像装置は使われず、窓奥の遠近感にダイナミックなカーテンが煽られるくらいだ。前半から会話劇が続き、味気ないというよりも綿密な話し運びは意外な気がしてしまう。何かを期待したり想像していたわけではないが、大きな間を置いたり、細かい場面転換が行われたりせずに台詞が続く劇進行は、路傍をのんびり散歩しながら景色を見たり会話を楽しむようなリズム感があるので、早さと目的地ばかり見る今の時代には創作されそうにない雰囲気があった。

登場間もなくはしゃぎ方に違和感を覚えた賀来千香子さんは、ありきたりの感想として、細く、顔が小さく、足がとても長かった。その肢体が舞台上で元気に動くだけで説得力はあるらしく、フランスを舞台とした物語に同調する髪型を見ているだけでも気分は良くなってしまう。そのかわり井上純一さんの動きはどうも日本人らしい社長像が気になってしまった。長男役の小泉駿也さんの顔立ちはフランスらしい若者像が優しく張り付いていて、この母子の姿だけでもこの劇の見応えがあると思っていると、永島敏行さんが登場して大きな手と声で重厚感を与える。

ストライキと社長交代までの前半はリアリズムを笑い飛ばす脚本となっており、資本家と労働者の対決の図式はこれほどゆるやかな関係であれば世界は平和だろうと思わせる浮き世離れとなっている。それを生み出しているのは、疑いなく観客席に演説する賀来千香子さんがあるからだろう。愛らしい姿がなければ許されない言動が続き、一時代前のアイドルを知らないくせにそう思えるほどチアする腕の振りや狙い打つ姿が板についていて、笑顔を見ているだけで満足してしまう。

後半に入るとコメディの面白さは数段盛り上がっていく。前半から感じていた台詞つなぎの軽妙さは勢いを増して、人物の登場するタイミングの面白さも合わさって身は乗り出し話にのめりこんでいく。俳句にも使われたアボカドによる弁護士の暗喩などよりも、ついゴシップに耳を傾けてしまう下世話な根性が満たされるようで、やはり男女間は浮いた話があってこそ楽しいと週刊誌らしい内容にうなずいてしまった。

コミカルな演出と内容は、コントという言葉がフランス語だと思い出させる。声が若干乏しいと思いはしたものの、上演後の挨拶で流暢に思いを口にする音声を聞いて、いまさら演技としての声だったのだと気づき、そのままの姿の賀来千香子さんはとても麗しかった。衣装替えも期待して待てるほどで、見本のような脚線美は様々なポーズでこちらをどきどきさせた。

後半の井上純一さんがとても好ましい役柄で可笑しく、ロケットペンダントを知ったあとの永島敏行さんの変貌もわかりやすく、秘書も子供たちも個性豊かに声大きく演じられていて、多く登場しない各役者の質がよかった。照明効果は古さがなく、息子の血筋について知らされた瞬間の色付けなどは、衣裳や装置同様によい質を使っていると思った。

自分の感想にしまりはないが、やはり台詞間と動作に演劇の面白さがあるのだと、ちょっと古いコメディに肩肘張らずに笑い、見とれた舞台だった。