3月28日(日) 廿日市市下平良にあるはつかいち文化ホールウッドワンさくらぴあで「古希記念 桂南光独演会 南光亭」を聴く。

廿日市市下平良にあるはつかいち文化ホールウッドワンさくらぴあで「古希記念 桂南光独演会 南光亭」を聴く。


演目

道具屋:桂 二豆

花筏:桂 南光

仲入り

稽古屋:桂 佐ん吉

上州土産百両首:桂 南光


桂南光さんを知ったのは広島に来てから観た昼のテレビだったような。その番組は西日本では「森田一義アワー 笑っていいとも!」のように生活になじんでいるらしいが、関東にいた自分には知られていなかった。しかし、この記憶は人物を照合するのに正しいのだろうか。


古希を迎えるにあたっての記念公演に行ってきた。去年の2月にもウッドワンさくらぴあに来ているらしいから、毎年おなじみの寄席かもしれないが、これも自分は初めてとなる。


上方落語を聴く機会が増えたので、さすがに関西弁に違和感を覚えることはなくなり、むしろ同じ“桂”を根にしていてもどのように違っているのか少しだけわかるようになったようだ。


前座の桂二豆さんは若く明るい声が威勢良く、マクラでもコース料理にかけて小鉢に続く煮豆としてうまいオチをつけている。快活ではあるがどことなく間にとろみがあり、元気な登場人物の演じ分けも人間像がやや乏しい。とはいえ関西弁らしいまくし立ての抑揚は心地よく、仮に自分が大阪に住んでいたのなら、今後どのように顔に皺が増えて経験が足されていくか楽しめる下地だろう。


続いて桂南光さんが登場すると、持っていたイメージとは違っていた。バイタリティーのありそうな顔立ちからすると怒濤のように喋り続けるものだと思っていたら、ややかすれた関西人らしい恬淡な声で落ち着いて話し、桂九雀さんでも感じた笑いの表情や話しぶりを見つけることができた。相撲にまつわる噺は途中に脱線して力士の食いっぷりに笑わされたが、描き方がやかましくなく、腰の据わった語り口は物語の情景が幅広く想像できるようで、各登場人物の表情はさすがに年期が違っていた。仲入り前からメイン料理をいただくような満足感だった。


仲入り後は、桂佐ん吉さんが芸達者を噺の「稽古屋」で見せていて、役者にしたら見栄えが良いだろうと思われる顔立ちの女役はやけに色っぽく、声も大きく通りがよいので、柔らかさを持った確実な高座に舞台を観るようだった。


そして再び桂南光さんは上がるのだが、どうも集中力が切れてしまい、せっかくの人情噺に心身没入することは叶わなかった。兄弟分の絆は最後に影絵のようなシルエットとして想起できる内容で、抱き合った際に互いに思わず懐から抜いてしまうスリだった間柄からの進展がじっくりとしていて、ところどころくっと笑う場面もありながら、人柄の決して悪く思えない同情心の強い登場人物に見所があった。複線を持った解決に物語らしい面白さを持ちながらも、やはり観るのは物語の中の人物造形であって、初めて聴いた噺は疑うことなくありのままに聴ける面白さがあった。


それにしてもキャリアが異なる。70歳を前にした関西圏の誰もが知っている囃家を聴いて、ありきたりではあるが本物を体験できる喜びがあった。楽器もいろいろと生のお囃子も贅沢で、廿日市にこんな良い寄席があることを今さら思い知った。

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