2月27日(土) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「オイゼビウス弦楽四重奏団 第3回演奏会」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「オイゼビウス弦楽四重奏団 第3回演奏会」を聴く。


ヴァイオリン:佐久間聡一、甲斐摩耶

ヴィオラ:棚橋恭子

チェロ:熊澤雅樹


シューマン:弦楽四重奏曲 第3番 イ長調

ブラームス:弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調

アンコール

シューマン:弦楽四重奏曲 第1番 イ短調 第3楽章


あたりまえのように音楽はあるわけではないが、オイゼビウス弦楽四重奏団の演奏会はいつも通りあるように思ってしまう。それは熊澤さんが他の室内楽演奏会に関わる事が多く、接する機会に定期演奏会のような頻度を覚えているからだろう。しかしシューマンとブラームスの結びつきによって生まれたこの弦楽四重奏団は、二人の作曲家が共に四重奏を3曲だけ残していることもあって、今回の第3回で最後になってしまうかもしれない。どうも終わる気がせず、違った形で派生しそうな期待を抱いてしまうが、達成感と寂しさが多少はこの演奏会を彩っていただろう。


ストラヴィンスキーやドビュッシーなどの現代に近づいた作曲家と異なり、ロマン派の作曲家は若い頃から独自の個性を光らせつつ、飛躍や凋落へ一気に進むことなく人生の足取りと成長を自然の速度で音楽に宿らせているような気がする。今日の曲も若さがほとばしるよりか、いくぶん複雑な構成を持ちながらしっかとした足取りを持ち、時に甘美なまでに歌い上げ、どっと勢いを強めるのだが、どことなく俯瞰しながら音楽性が高まるような玄妙さがあり、軽さを持ちながらもそれらは若さの弾みよりかは、軽はずみにならない歩調となっている。


シューマンは第2楽章から曲にぐっと近づくようで、第3楽章は特にロマン派としての宝石が歌われるようだった。棚橋さんのヴィオラがメロディーを奏で、それぞれに重奏される音楽の生命力は繊細で奥ゆかしく、シューマンの美点が凝結したように綾な和音が豊かに推移されていた。第4楽章は快活なリズムによって音楽は高まりをみせ、やや抑制されて控えめな音にも聴こえていた佐久間さんの音色も一気に走り突き抜ける。


たいていブラームスのほうが構造的な上手さの中に巧妙な音楽性が潜み、美しいメロディーや和音が間違いなく盛り上がってくる印象だが、この曲はたたずむような祈りを感じさせる。ところどころ若さよりも後年のブラームスに散見される憂いも流れ、熱情がむやみに走り出すようなことはなく、いくぶん途切れ途切れに自制するように複雑な構成をみせている。単調さがないからといって重苦しいわけではなく、妙な軽さと心の落ち着きを持ちながらも、目はじっと深部を見つめるような曲への慎重な様相もあるようで、もっと聴けばより味わいの知れる作品のような気がした。


アンコールはシューマンが演奏され、チェロのパートで熊澤さんがすこしばかり上を向いて演奏する音色と姿に多少想いが透けるようだった。


室内楽だからこそ各楽器への比重は集中され、どの曲も決して小さいものではないから時間調整も広響との兼ね合いがあり、簡単な日々ではないだろう。それでも今後も頻繁に室内楽に接する機会は設けられるだろうと聴き手は安易な希望を抱いてしまうほど、精力的な活動は来月再来月の行事のチラシと一緒に予測してしまう。


笑えない冗談を自身の趣味と希望を混ぜ合わせれば、スターリンカルテットのような名前でショスタコーヴィチの四重奏を第1番から演奏されるのを聴いてみたい。


そんな表現の自由をつい考えてしまうほど、オイゼビウス弦楽四重奏団だけでなく、広響のメンバーと関係者による室内楽にも日頃お世話になっているのだと実感するたしかな演奏会だった。

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