1月30日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでアンナ・イボーン監督の「トランスニストラ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでアンナ・イボーン監督の「トランスニストリア」を観る。


2019年 スウェーデン、デンマーク、ベルギー 96分 カラー Blu-ray 日本語・英語字幕


監督:アンナ・イボーン


青春映画として独特な完成度を持った良い作品だった。すぐに目を奪われるのは画面の色で、鮮明よりも淡く、季節と時間に敏感に感応する色を持ち、ぶれがあまり気にならない程度の手持ちカメラで若者達を追っていく。


その若者達はドキュメンタリー映画と思えないほどナイーブな動きを見せている。都市の若者よりも地方の純朴たる存在らしく、常にじゃれ合う姿はむしろ子供そのものに近く、時には獣のような屈託のなささえ感じるほどだ。彼らはありのままの姿を見せているように思えるが、疑いなくカメラを意識しており、ドキュメンタリー映画でも決して拭いきれない被写体の演技が良質なストーリーを生んでいる。その証拠に他の映画でも滅多にないほどカメラ目線のショットが差し込まれており、こちらを見つめて「わたしたちはどう?」という、はにかんだ挑発のメッセージさえあるようだ。


そんな若者達が暮らすトランスニストリアという舞台選びがこの作品をさらに特殊な装いでもたらしている。ウクライナとモルドバを陸路で旅行してその近辺の世界地図を見てきた自分でも沿ドニエストル共和国は聞いたことはあるが、この国の別名は知らなかった。最近ラジオでジョージアもアルメニアも知らないという話はあったが、他国は時に驚くほど知識が届かない。そんな小国を故郷にする若者達は、とにかくドニエストル川で水遊びをする。侵食されて壁のような川岸が遠望され、広大な大地と悠々としな流れに浸かり、暴れ、飛び込み、時には溺れそうになって助けに向かい、抱き合ったりと、水と自然に若さが加わってただあるだけの時間はかけがえのないものとなっている。


そして登場する若者それぞれに個性がある。メインとなる男女の他に、6歳で軍隊へ自発的に加入する美しく聡明なちびっ子兵の入隊のセレモニーもただの若者映画にさせず、この国の置かれる立場と国民の生活状態を浮き彫りにする。プーチンという固有名詞やロシア語のポップスなどがアディダスを着る若者にあり、裸のたくましい姿が何度も切なく目を動かし、矛盾するように互いの関係を噂して絡み合う。


坊主頭の姿がダニー・ボイル監督の「トレインスポッティング」を想起させるが、あれほど退廃で薬臭いところは一切ない。あるのはカメラを前に演技する若者の事実の姿と、羨ましい限りの若さと自然に、永遠に保ち続けると思われるこの国の土地の素朴さだろう。


青春がそのまま季節となる夏に、厳しさがそのまま雪と泥道になる冬があり、捨てられた工場に忍び込んで何をするわけでもない若者達は、都会の人間からすると稀にない眩しいほどの美しさで映されていた。

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