1月8日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで稲垣浩監督の「宮本武蔵 完結篇 決闘巖流島」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで稲垣浩監督の「宮本武蔵 完結篇 決闘巖流島」を観る。


1956年(昭和31年) 東宝 104分 白黒 35mm


監督:稲垣浩

原作:吉川英治

劇化:北條秀司

脚色:若尾徳平、稲垣浩

撮影:山田一夫

美術監督:伊藤熹朔

美術:上田寛

録音:宮崎正信

照明:西川鶴三

音楽:團伊玖磨

監督助手:福田純

編集:岩下廣一

出演:三船敏郎、鶴田浩二、八千草薫、瑳峨三智子、岡田茉莉子、志村喬、千秋実、佐々木孝丸、加東大介、田中春男、上田吉二郎、富田仲次郎、高堂國典、沢村宗之助、山田巳之助、清川荘司、櫻井将紀、岡豊、葉山富之輔、音羽久米子、出雲八恵子、本間文子、沢村いき雄


稲垣浩監督の宮本武蔵三部作の完結篇は、誰もがイメージするであろう対決のシーンがうまく再現されて終わった。


前2作品にも時々見せていた画面の色の変化がこの映画にもあり、さらに美しく様変わりした岡田茉莉子さんと変わらず武蔵想い続ける健気な八千草さんも健在で、3作品それぞれに作風はあるが、共通して存在する描き方は一貫している。泣いてばかりの姿があまりにも哀れにみえる八千草さんは、やはり瞬発力よく器用に着物で走るシーンがあり、それほど目立った心の変転がないからこそ一途に武蔵を追いかけ、涙ぐましいシーンを演じる。“またか”と思うからこその繰り返される良さがあり、刀を振るう三船さんの殺陣同様にこれらの作品で好ましかったのは、武蔵とおつうの子供のような純愛のやりとりだろう。泣いてすがるおつうに、苦虫を潰したように耐え抜く武蔵の表情と目の動きは、いとおしいものがある。その二人の関係に加えて岡田さんもまた移らない純愛をみせて三角関係を作り、これはこれで多情でない薄幸な女性の姿に同情を覚える。


前作ではややこざかしく思えた鶴田さん演じる小次郎も、より箔がついて顔立ちにも気品が固まり、優ではあるが剣豪らしい強さが全体に表れている。歌舞伎役者のような風貌はより男っぷりが磨かれていて、たしかに惚れ惚れするような顔を見せるシーンもある。


「バガボンド」のように宝蔵院や柳生の描かれ方が足りないのは、映画という時間制限により無駄がより省かれるので仕方ないのだが、この作品ではもはや又八の存在は忘れ去られており、宮本村の面々も登場してこない。そのかわり百姓仕事の場面に多く時間は使われており、このまま島で決闘せずに映画は終わってしまうのではないかと思われるほど、スケールの大きな表現となっている。そもそも栄達をあきらめて流浪に出るあたりから、山と草原の広さを映す画面に心は奪われ、熊五郎というユーモアのある子分も加わり、おつうが参上して、朱美もやってきて、賊が村を襲来すると、ボンダルチュク監督に通じる馬の疾走と村の放火となり、家が燃えあがり濛々とする宵闇に紛れて祇園藤次と朱美の死につながり、熊五郎も討たれ、胸に迫る痛ましいシーンが描かれる。


そこから決闘へは足早に描かれるが、やはりメロドラマらしい甘い邂逅が船に乗る前の武蔵に訪れ、おつうと砂浜で愛情を打ち明けあう。こういう描き方は常套的かも知れないが、計3作品観てきた者にとってはこれぐらいないとおつうが報われないと思うほどで、ここで初めて砂浜を歩こうと心を開いて誘う武蔵に、非常な喜びをみせるおつうの表情が何ともいたいけだろう。そして砂浜で武蔵の胸に顔を埋めて泣き、決闘に行かないでというと、侍の妻なら潔く見送れと言う武蔵の叱責に、“はい”、という一言だ。これが大女優の持つずば抜けた一声なのだろう、3作品のおつうがすべて集約されている。


決闘は派手に斬り合うよりも、朝日の昇る時間経過と波の音が手に汗握るリズムを作っており、互いに刀を打ち合う早さも真に迫る鋭さがあり、小次郎が切られる時に挟まれる断片的な刀のショットが実ににくい使われ方をしていて、まさにとっておきの二刀流を出す様が編集されている。


結局好みの分かれる宮本武蔵ではあるが、3作品通じて各登場人物に愛着を持つほどの質となっており、こざっぱりして洗練されはするが相変わらず不器用で罪な宮本武蔵に、どんどん女らしく変貌する薄幸な朱美と、いつまでも少女のようなおつうの三角関係が最も惹かれたところだろう。


画面の構図、編集、音楽、ロケーションなど、映画の基本要素はどれも高いところにあり、各役者の演技はいわずもがなの個性が表れている。もちろん素晴らしかったのは三船さんだが、個人的な好みというか、むしろファンのような目線で観ていたのが八千草さんで、映画としての楽しみをこのうえなく満足させてくれた稲垣浩監督の宮本武蔵だった。

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