11月20日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで吉松公三郎監督の「夜の素顔」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで吉村公三郎監督の「夜の素顔」を観る。


1958年(昭和33年) 大映(東京) 121分 カラー 35mm


監督:吉村公三郎

脚本:新藤兼人

撮影:中川芳久

美術:間野重雄

音楽:池野成

録音:橋本国雄

照明:泉正蔵

出演:京マチ子、若尾文子、細川ちか子、根上淳、菅原謙二、柳永二郎、坂東簑助、小川虎之助、船越英二、浪花千栄子、小野道子、仁木多鶴子、町田博子


今月は「百花繚乱 銀幕のヒロインたち」として昔の日本の作品が上映されていて、気づけば吉村公三郎監督にスポットの当たる映画鑑賞となっている。


今日の映画は京マチ子さんが主演していて、変化自在の演技らしい演技の腕前と存在感が見所となっていた。


序盤はおどろおどろした人魂の浮かびそうな音楽がモチーフに使われていて、それだけで恨みや怨念の扱われている物語だという先入観が発生してしまい、たしかに成り上がる執念は次々と事を成していくのだが、純情で薄幸な運命の陰影が後半に向かって色を伸ばしていく。


劇的な大逆転も考えてしまいそうなクライマックスになると、むしろあっけなく消失していくような哀れで儚げな往生を遂げてしまい、音楽のモチーフは死化粧と呼応して、進取の気性を持った芸人の運命の、伝統に固執せず、むしろ創造にこだわって早々と死に果てる不安定な人生が世間に向かってカメラのフラッシュで焚かれることになる。


一生の変転を物語るには割におとなしい調子となっていて、後半はやや物足りない展開とさえ思えてしまうのは、京マチ子さんの役柄の豊かさが勝っているからだろう。日本舞踊という芸の世界の裏側が興味深く描かれていて、化粧に所作、衣装に性格など、塗り固めて魅せる芸が日常生活にまで及んでいて、躾と礼儀の中での当てこすりは手厳しく、また人間関係の冷たさにひやりとする。その中で柔らかさよりも機械的なほどの技巧で演じられる京マチ子さんは、すべてが完璧にあるようで、不自然な一挙手一投足の完成が見事だった。


端役にもかわいい顔してぬけぬけと後釜に落ち着こうとする若尾文子さんだったり、関西弁のおしゃべりおばちゃんという性格俳優そのままが魅力的な浪花千栄子さんが登場しているのも嬉しい場面だ。


目の強さだけがそのままでない、むしろ不気味なほど演技の奥深さを持っている京マチ子さんという役者の多様な一面をわかりやすく楽しめる作品だった。

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