11月15日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで吉村公三郎監督の「わが生涯のかゞやける日」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで吉村公三郎監督の「わが生涯のかゞやける日」を観る。


1948年(昭和23年) 松竹(大船) 101分 白黒 35mm


監督:吉村公三郎

脚本:新藤兼人

撮影:生方敏夫

音楽:木下忠司、吉沢博

美術:浜田辰雄

録音:大村三郎

出演:山口淑子、井上正夫、森雅之、滝沢修、清水将夫、宇野重吉、加藤嘉、村田知栄子、清水一郎、殿山泰司、三井弘次、逢初夢子、山内光


個人的な嗜好に合う作品だった。アメリカ映画のかぶれになるのかもしれないが、モダンでないジャズが何度も画面に色を添える内容は、戦後の場末の哀愁が色濃く漂い、見るからに悪人らしい面をした滝沢修さんに、ヒロポン中毒の森雅之さん、睫毛が非常に長く額の素敵な山口淑子さん、戦時中の拷問で足に傷害を負った宇野重吉さんなど、戦後の役者は顔立ちだけでない存在感があり、明暗法と細かな編集の中で複雑な関係図は上手に運ばれていた。


この映画を好ましく思うのは、ただのアメリカの物真似にならない独特な雰囲気を持っているからで、キャスティングのうまさと思いこめる登場人物の個性がそれぞれ立っており、父親を殺した男の腕を短刀で刺す気丈が山口さんのエキゾチックな目と額に表れていて、前半の度胸は後半には愛しい人への想いに柔らかくなり、ヒロポンを求める時は目も窪んで情けない風体だが元気な時は男前な表情を見せる森さんなど、主役にしても華があり、裏表に胆力をみせながらなぜか滑稽な話し方も含まれている滝沢さんの悪魔のような顔面や、飄々としながら前向きに時代を開く輝いた目の宇野さんなど、脇を固める登場人物達も魅力ある風采を持ち、わずかな登場でも決して見逃せない殿山泰治さんもうまい具合に画面に挿入されている。


そんな固有の性質を持った登場人物は戦後の背景をそれぞれ持ち、終戦によって大きく潮目は変わり、立場の変転した姿が描かれている。それらは前半からじわりじわりと展開されて、最後には雨の中での決闘に行き着く。そこまでの物語の運びにほとんど無駄がなく、それでいてカメラアングルも狭くならずに視点や角度を持ち、動きも退屈にならずに映している。


ただのキャスティングと雰囲気の妙で終わらないのが良いところで、悔悟と懺悔に対して許しがあり、大切な人を殺害した愛人に対しての態度や、足に傷害を残した恨むべき人間への格闘など、兄妹と友人の関係が悶着あるコントラストを生んでいる。


暗い時代は終わり、乱れてはいるが新しい国を作る気概がこの映画には宿っている。ただの現状を描くだけでなく、昔の映画は大きな尺度で未来を生み出す意思があるからこそ、どの役者もみな魂のある姿を映画に残せるのだろう。

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