10月7日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイム・スルレ監督の「リトル・フォレスト 春夏秋冬」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイム・スルレ監督の「リトル・フォレスト 春夏秋冬」を観る。


2018年 韓国 103分 カラー Blu-ray 日本語字幕


監督:イム・スルレ

原作:五十嵐大介

脚本:ファン・ソング

音楽:イ・ジュノ

出演:キム・テリ、リュ・ジュンヨル、ムン・ソリ、チン・ギジュ


年に1度の韓国映画特集が今年もやってきた。昨年も一昨年も良作が上映されていたので、無料で入れる一週間は客席も賑やかになるだろう。


これは衣食同源を愛らしく描いた作品だ。落ち着いた構図やカメラワークにストレスを感じさせる要素はなく、快い風景を眺めるように物語は進んでいく。


現代と過去の差も少なくないが、都市と地方という環境の違いが主題にされていて、原初の農耕文化から脈々とつながれた生活の豊かさが様々な調理風景とレシピに落とし込まれていて、何度も唾を飲み込む。溶いた片栗粉を衣にフライパンで焼いただけの白菜や、マッコリの作り方に瓶で発酵する姿、キャベツを使ったチジミ、それは仕上げに鰹節を削るお好み焼き、気分に合わせて大量の唐辛子を使ったスープにトッポギ、干し柿、栗の甘露煮、などなど、キム・テリさんの澄んだ瞳に細い体は宮崎あおいさんに似た雰囲気を持ち、愛する母親の記憶を恨めしく思いながら、どこに根を張って生きるかを季節と共に見つめていく主人公の姿と二人の友人関係は、食と友という生きるうえでの最低限でありながら、それがあれば多くはいらないという自然な形を伝えている。


しゃれた食に関する雑誌のような作品で、カレンダーを白い犬と植物の色に飾られながら、雨が降ったり雪が降ったり、汗を流して体を縮め、台風に倒れた稲を直して腰を痛めたり、長雨にトマトが黴びてしまったり、真夏の暑さに村に注意報が流れたり、農業は決して楽ではない。そこで語られるのは、待つこと、待つこと、そしてタイミングを間違えないこと。自然を相手に人のできることは限られており、研ぎ澄まして機を狙うことに尽きる。それは料理も同じだと母との回想が教えている。


火と血、それに食と体、直情的な面をイメージする韓国の人々は、島国にはない大陸の大きさがあり、最近の映画やドラマ、ポップスにも通じるが、文化を生み出すことに長けた国だというのは日本の陶器の歴史にも感じるところだろう。自国にもあるニュアンスの映画でも、少し違うところが大切であり、どちらが物真似で、本物で、偽物とかではなく、儒教を伝える格子窓や、より反った屋根など、細かな違いの中で互いに文化を育んでいるのだと、世界のどの国よりも演技の意味が伝わりやすいと腹を空かせてしまう。


珍しいカットや話はなく、ユーチューブでみるレシピ動画のように真上から料理され、説明されるシーンは少なくない。それでも茹でたパスタに白と紫の花をちりばめ、フォークで丸めて一緒に食べる女子はかわいらしい。それでいて、男を蹴る、叩くなど、食にたずさわる人特有の元気な女性による男への扱いがあり、しかめっ面で文句を言ったり、しとやかに言い訳したり、可愛げな感情は動作にそのまま表れる。特筆すべきは、夜の川の石に鼎談して恋と仕事を月明かりと水の流れに託すシークエンスで、まだまだ若いながら李白の詩世界が広がっている。


大切なことは珍奇ではなく、あるがままの姿と由緒ある食と生活だと、ほっこりした。

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