10月3日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでギィ・ジル監督の「オー・パン・クペ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでギィ・ジル監督の「オー・パン・クペ」を観る。


1967年 71分 カラー・白黒 Blu-ray 日本語字幕


監督・脚本:ギィ・ジル

出演:パトリック・ジュアネ、マーシャ・メリル、ベルナール・ヴェルレー


今回のフランス映画特集を連日観ていて、昨日は予定があって足を運べなかったのが悔やまれる作品だった。半月にわたって上映されるすべてを観ることなく、たった一作品だけ抜かしてしまうのも心持ちはすっきりしないが、なによりギィ・ジル監督の初長編映画がどのような作品であったか興味が湧いてしまい、昨日があれば今日はまた違っただろうなどと、ないものにすがりつきたくなるほど個性が目立っていた。


とある映画作品の感想をあげるのによく引き合いに出すのが、タルコフスキー監督とパラジャーノフ監督で、カラーとモノクロが行き交う今日の作品の白黒にはロシア、もしくはポーランドの映画に感じる抒情性があり、そこにカラーを含めた映像のリズムにはグルジア生まれのアルメニア人監督と類同する詩の世界が表れていた。ドキュメンタリー性を持ったモノクロには空気に舞う埃もとらえられ、ポストカードに切り取られる構図が多く、カラーには絵画作品としての基調と色合いがあり、それらが現在と回想とで混ぜられつつ、ポエティックなセリフとアクションの思うままに編集されている。とあるシークエンスには、ワンカットの存在がスタッカートのように短く置かれ、それからアルペジオのように遠近と角度の異なる視点が素早くリズムよく編集されており、ユーモアと理屈の心理を廃した若い感情と愛が洒落た美の構図のみに動かされていく。


創意工夫がすべてうまくいってるわけではなく、時にはおかしく思われる演出と編集もあるが、目はかっと開かれ、時に集中されるシーンがいくつもあり、記憶に残る作品特有の、良点が悪点を見過ごす贔屓を起こさせる。亡くなった恋人に関してビートニクの若者達とのつきあいが描かれており、ザ・ブルーハーブにも路上で刺激を与えた一定の小説家達の作品を読んでいない自分としては、その点の背景知識を持っていないのが残念に思われた。おそらくそのあたりの作風を知れば、この映画の造形に関連を見いだせるのだろうが、今はこの映画表現に借りた純粋な詩芸術の世界を視覚と音声で味わうのみだ。


筋や物語は抜きにして、異なった映画文法による詩作品は好みが分かれるだろうか。だからこそ、自分は惹かれ、明日があるものの、昨日が惜しくてたまらない。

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