9月18日(金) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第399回定期演奏会」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第399回定期演奏会」を聴く。


指揮:秋山和慶

ピアノ:谷昴登

客演コンサートマスター:長原幸太

管弦楽:広島交響楽団


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調

ブラームス:交響曲第1番ハ短調

アンコール

ラフマニノフ:「楽興の時」第4番ホ短調


延期された演奏会は番号が早く、ベートーヴェンのピアノ協奏曲も作曲時期は1番と2番で入れ替わるらしく、そのような場合には何かしら理由があるのだろう。


海外からの渡航が困難な今は、日本の指揮者と演奏家に着目できる時期ともいえる。今日の谷昴登さんはまだ17歳らしく、線の細い体と所作は礼儀正しいぎこちなさもあるが、さすが技術の高い演奏となっていた。今日も最前列の端の方に座り、数ヶ月以内に2種類のベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴いていたので比べることになった。


水の柔らかさと積み重ねた威厳の中間にあると思うなら、最近の比較の単純な位置づけになる。教科書通りというか、やや個性的な表現力に欠けるように思えたのは、真面目にピアノに向き合ってきた成果なのだろうか、寡黙なまでにきっちり音を刻むわけではなく、自由気ままに揺れることもなく、確実な演奏をしていた。それが多少殻を破って力ある演奏で引き込んだのが第1楽章のカデンツァで、第2楽章になるとナイーブな音色も多く、第3楽章では高低の強弱はあるが存在感はやや物足りなく、つい年齢を抜きに聴いてしまった。それでも確かな実力と土台の迫力ある箇所もあり、特にアンコールのラフマニノフの演奏では、数段音量をあげたピアノの音色は明確な感情を持ち、若さのたぎる狂おしい青春の欲望を感じるほどで、青年の持つ無二の時代がほとばしり、うらやましいほどの熱情が飛び散っていた。まだ17歳だと納得させる演奏で、これからどんどん音楽性が芽を出していく姿を期待してしまった。


秋山さんの指揮は、ベートーヴェンの始まりから穏やかな格調は響いていて、ブラームスの入りにはより真っ正面な音楽が通されていた。変に力は込められることなく、楽譜に忠実に描かれるような音楽が流れていき、悲調に泣くことなく弦のフレージングは心豊かな感傷を奏で、各パートの色彩はばらばらになることなく粒が澄んでいた。第1楽章からこの曲の風格は表れていたが、第2楽章はさらに細密に柔らかく楽器同士が響き合い、特に木管楽器の自然な音色には肩の力の抜けた日だまりを感じるようで、品良く優しく労るような指揮の姿も、積年変わらず蓄えられた音楽への愛情がこぼれるようだった。それは音量も増した第4楽章に増幅されて、音楽が終わってしまう悲しさを覚えつつ、見事なオーケストレーションと進行によって思い出深く閉じられた。


新しい音楽もあれば培ってきた音楽もあると、つい安易なコントラストを考えてしまうが、きっとそうなのだろう。回も番も時に入れ替わり、輝かしい舞台に満足する演奏会だった。

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