7月16日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで小林正樹監督の「壁あつき部屋」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで小林正樹監督の「壁あつき部屋」を観る。


1956年(昭和31年) 新鋭プロダクション 110分 白黒 35mm


監督:小林正樹

原作:BC級戦犯の手記より

脚本:安部公房

撮影:楠田浩之

音楽:木下忠司

美術:中村公彦

照明:豊島良三

録音:大野久男

出演:浜田寅彦、三島耕、下元勉、信欣三、三井弘次、伊藤雄之助、内田良平、林トシ子、北竜二、岸惠子、小沢栄太郎、望月優子


フランス映画のあとにポーランド映画の作品上映が続き、間にポン・ジュノ監督も数品観ていたので、映画作品の質の違いを強く感じた。画面の色合いよりも、ワンシーンごとに詰められた要素の濃さが異なり、外国人と日本人という差よりも、リアリズムという根拠を持たない言葉で違いが表せそうなくらいだった。表情の持つ過剰な迫真性が乏しく、台詞と台詞の間における事態の深度が狭く、変に写実ぶらない演技が舞台のようで、心情に訴えかけてくるわざとらしい技巧が少ない分だけ、昔の人間らしい恬淡な力強さを感じた。


BC級戦犯を扱ったこの物語に接していると、伊藤裕之介さん演じる登場人物が朝鮮人としての立場を吐露しており、それが鄭義信さんの「赤道の下のマクベス」を思い出させる。その物語に比べるとこの作品は緊迫感が欠けており、ミャンマーあたりでの上官の命令による殺人の経緯などは、やたら叫ぶところが当時の日本兵らしく滑稽であるものの、まるで子供のお遊戯のようなシーンが事実行われていたところにアイロニーがあるのだろう。


構図の迫力は最近観た映画に比べると乏しいかもしれないが、東南アジアの地元住民が広い原野で迫ってくる不自然なシーンは、その編集の連続にたしかな効果があり、本物だろうかなどと疑うよりも、画面が示しているものをただ感じて受け止めればいいのだろうと思ってしまう。こういうシークエンスこそが、巧拙云々よりも、映画の持つ魅力なのだろう。


監獄と娑婆の違いや、軍の命令に従っていただけとはいえ、それぞれ刑に服する人物に罪の意識があることは、鄭義信さんの戯曲作品にも含まれていた。ただ、慰問らしい女性達の舞台の淫らさや、刑務所内での演説や役割などに特定の権利が与えられているらしく、脱走を企てた人物に、母親が亡くなったからといって期限付きの仮釈放が与えられるなど、不可解と思える仕組みも存在していたのが興味深い。ただ、これが事実なのかは調べていないが。


脚本が安部公房だと知ると、この作品の内容がすこし理解できるようだ。細かい点に不条理が描かれている作品であり、命令を下した上官に外で再会するシーンでの感情の推移などは観るべきものがある。そして、浜田寅彦さん演じる猫背の登場人物の変化のなさそうな姿態の変化に、なにより味があるように思える。

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