7月10日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでパヴェウ・パブリコフスキ監督の「イーダ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでパヴェウ・パブリコフスキ監督の「イーダ」を観る。


2013年 ポーランド語 82分 カラー 日本語字幕 デジタル


監督:パヴェウ・パヴリコフスキ

脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、レベッカ・レンキェヴィチ

音楽:クリスティアン・セリン・エイドネス・アナスン

撮影:ウカシュ・ジャル、リシャルト・レンチェフスキ

編集:ヤロスワフ・カミンスキ

出演:アガタ・チュシェブホフスカ、アガタ・クレシャ、ダヴィット・オグロドニック、イェジー・トレラ、アダム・シシュコフスキ、ハリナ・スコチンスカ、ヨアンナ・クーリク


この作品は昨年サロンシネマで観た「COLD WAR あの歌、2つの心」と同じ監督で、今回のポーランド映画祭で一番楽しみにしていた。大胆な編集でよけいな説明を一切省いた印象が強く、上映時間はそれほど長くない中で端的に物語を構築していた。


その系譜といえばおかしいが、純然たる監督の個性がこの作品にも明瞭に存在していた。今日も上映開始15分を経過してからの入場となり、肝心な物語の始まりの紛失は連日痛感しているが、途中からの鑑賞であっても得られるものは多くある。画面を観てすぐに構図の深みに目を奪われる。まず、モノクロ画面がまるでレントゲンのように物象をかたどる線を浮き彫りにしている。次に、カメラは固定されて一度しか動かず、その厳然としたカメラワークは恐ろしいほどの効果を生みだしている。そして、画面を中央に四分割してそのどこかに人物をはめるように切り取り、ハンマースホイの絵画ような背景を持った空間を捉えている。偏った構図は多いが、それらは長たらしく回さないショットで連結されていて、中間距離を保ちながら、時には米粒ほどの人となるロングショットや、人物の目が虚空を観るように思索するクローズアップもある。


遠い鐘の音や小鳥のさえずりもあり、それらは宗教と生活が密接に暮らすスラブの国々の遺伝子のようでもある。お洒落に退廃する明暗の中でのジャズの演奏も、その静かな咆哮は抑制が利いて、一種の祈りにさえ思える。


おそらく傷が見つからないほど完璧に構築された作品となっており、ところどころの演出と物語の流れは見事に心を打ってくる。配役の妙も大きな要素として心を奪い、目、目、目が繰り返し窓として奥底を映し、髪の毛がこれ以上ない魅惑として鏡に映し出される。


スラブ系の人間以外には生み出せない作品と思えてしまうほど、画面の静けさと寒さ、それにコートの温もりが伝わってくる。ワンショットワンショットが美としてあり、いつまでもいつまでも観続けることのできる最上の作品だろう。

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