5月4日(月) 広島市中区立町にある居酒屋「天の棚 本店」の弁当を食べる。

広島市中区立町にある居酒屋「天の棚 本店」の弁当を食べる。


家に帰ってチラシを広げて、“4/21 OPEN”とある。大変な時期に……、正直そう思った。


餃子弁当は昼になくなったらしく、焼き鳥弁当はなぜか素通りしてしまい、カキメシはどうも頼みづらく、迷った末にここの弁当になった。こういうテイクアウトを買う場合は、いくつかの選択肢があると決めきれなくなるらしく、他を知る前に目の前のニンジンにかぶりつくように買うのが良いのだろう。計画や計算が入ると、素直に買えなくなってしまう。


連休中とあり時間は本当に余裕がある。注文してすぐにできあがらずに外で待ったのだが、雨は降らず、夕刻は日差しを気にせず、赤ん坊を抱えるお母さんの筋肉の響きをはかるほどに感覚は暇していて、例え30分待たされようがいっこうに構わない気分だった。


作りたての弁当をすぐに食べるのが良いのだろうが、テイクアウトは必ず寄り道を挟むようで、原爆ドーム前のベンチに座って私用を済ませていたら、実家から連絡があり、ついつい自転車を歩かせながら長話をしてしまう。町田は何人で、駅向こうの金森のほうが多く、八王子と争っている、世田谷も多いけど、経堂に住むおばさんは違っていて、世田谷といっても広いからなどと、地域によって細かい分布図が口コミで知られているのだと、知らない自分は広島市内の状況を説明していた。どこも大変だなぁ、と他人事で肉親の世間事情を笑いながら、冗談にならない死も諧謔に取り入れて、踏ん張りながら笑って生きることをいつも通り確認しながら、元気という言葉で電話を切る。家族は特別だ。


家に帰ってすぐに血のつながらない家族が帰ってきたので、夕飯にする。食べるペースが早いので、いつも通り先に食べてもらえるものは済ませて、遅れて半分ずつの天ぷらに口を動かしながら箸を伸ばしていく。


やっぱりタンは焼きたてがいいなぁ、天ぷらも揚げたてがいいけど、やはりおいしいなぁ、なんて思いながら弁当をすぐに完食する。


弁当を買う前の事前チェックの電話で、「テイクアウトにはまっているでしょ」という言葉にうなずく。穴があればはまり、面白ければ何度だって進んではまりこむ。食べるのが好きで、他にやることがないとは言わないが、非日常を旅行と言うならば、不届きな発言であるとしても、やはり連休と非日常が組み合わされば旅行という言葉をあてはめることはできてしまうのだ。


足音の響く本通や、個人と個人の関係性を強く感じる各店での接客など、ここは広島であってもいつもの広島ではなく、まるで別の土地のようにすべてが新鮮に感じられてしまう。それを良い悪いと断定するのは道徳心に任せておいて、率直な感覚としては、おそらく良くないこととはいえ、夜の世界よりも異なった現実が平然と毎日の中で展開されて、鋭く感覚を刺激してくるのだと、シャッターと張り紙の多い街中と何度もすれ違う人々が突いてくる。


テイクアウトばかり買う毎日が昔と違うとか、心配しての電話が当然だとか、考えることはあまりに感傷的だろうか。習慣と平常という束縛をさっと置き去るように、随意に環境の変化に対応するのは、あまりに人間味がなく、感情を持たない存在となるだろうか。おそらくそうあれば冷血なほどの人物になるだろうが、それは生き延びるには何よりも確かな姿勢であり、他からおかしいと思われる血の気の通わない不気味な者として扱われることになるだろうか。


こんな考えを起こすくらいだから、連休は確然とした休みと、プライベートな頭の働きをもたらしている。平時の雑念は少なく、皮を剥いだトウモロコシのように本然が無数に輝いているなんていえば、間違った比喩になるだろう。


テイクアウト、テイクアウト、弁当、テイクアウト。毎日を考えれば、どう思うか。なにもなく、明日も美味しいものを食べようと思うだけだろう。ただただ毎日は胃袋に消化されていくばかりだ。

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