2月8日(土) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島市民劇場2020年2月例会 劇団民藝公演『集金旅行』」を観る。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島市民劇場2020年2月例会 劇団民藝公演『集金旅行』」を観る。


原作:井伏鱒二

脚本:吉永仁郎

演出:高橋清祐

装置:堀尾幸雄

照明:中川隆一

衣装:半田悦子

効果:岩田直行

舞台監督:中島裕一郎

出演:樫山文枝、西川明、伊藤孝雄、箕浦康子、内藤安彦、水谷貞雄、今野鶏三、小杉勇二、有安多佳子、河野しずか、山本哲也、みやざこ夏穂、吉岡扶敏、神敏将、塩田泰久、岡山甫


今までにないくらい良くない劇の観賞をしてしまった。今回の市民劇場の例会は1度は観てみたかった劇団民藝の公演で、それも映画でとても強い印象を残した「集金旅行」が作品とあるので、期待するものは大きかった。


しかし劇が始まった瞬間から佐田啓二さんと岡田茉莉子さんの映像との差異を強く感じてしまい、持ってはいけない観点がしつこく付き纏っていた。全く悪い意味にしかならない、作品を曲解させるだけの視点となり、いつまでも比較が頭の中で行われてしまった。


おかげで喜劇であるこの舞台をほとんど笑うことなく真顔で観るのみで、斜めから批判するだけの観劇となっていた。舞台作品をそのまま受容することができずに、異なった媒体での受容という到底正しいと言えない、また決して一致することのない、食い違いしか起こらない状態で観続けていた。


そんな中での感想といえば、良くも悪くもぬるいという言葉があがってくる。そもそも間違いである比較をどうしてもしてしまうが、映画では若さのある二人が速いテンポで次々に舞台を転々としていく軽妙でぶっきらぼうなやりとりが魅力であったから、悪く言えば鈍くさいと思ってしまうヤブセマスオとあまりに熟し過ぎたコマツランコの素直さに不適合が発生していた。遅いと思える芝居のリズムに、存在感がやや弱いと思える発声があり、昔の作品らしい押し出しの強さが見えなかった。作品の副題に小説の材料集めがあり、その脚色は物語に大きな影響を与えていて各場面に意味を持たせるが、オープニングとラストに描かれる太宰治と井伏鱒二の関係があまりにも有名で、悪くいえばキャッチーに思えてしまう。女性関係と自殺願望を笑いの材料として使われるが、どうもあまり良い扱いとは思われなかった。印象として挙げられるのがみずみずしさの欠如で、老年夫婦の慰安旅行のようなゆったりした笑いは、佐田さんと岡田さんばかり探す自分には受けつけず、荒さと激しさが足りなかった。ほっこりなんて言葉があてはまってしまいそうな展開は、まるでゆとり教育なんていう画一的な括りを使っても構わないと思わせるとろさがあり、休憩を含めて約3時間になる長い芝居は、冗長な老人の締まりがなかなかやって来ない喋りを聞かされるような退屈さもあったことは否めないだろう。


どうも悪く思ってしまうから、非常に残念なことに舞台装置や細かい演技についての感覚は目を閉じていたような気がする。大掛かりではないが場面を確実に再現する装置や、ふすまを使った異なる空間の同時進行の演技などは、舞台でしか味わえない空間と時間の進行があり、岩国での慰謝料をもらう場面や、金の巡り、香典の束なども、思い返せば面白いのに、どうして素直に笑えなかったのか。子供っぽい拗ね以外に説明はいらない。望んでいたものが手に入らず、目を背けていたのだろう。


おっとりや、ゆったりとか、そんな言葉は嫌いではないが、短気でせっかちにちょこまか動き続けるのが好きな性格だから、今日の夜の自分にとってこのぬくぬくした劇は前をとろとろ歩く人を早く避けて前へ行きたい苛立ちを感じていた。


映画作品の、気取った佐田さん、鼻っ柱が強く身勝手な岡田さん、異様にしつこいトニー谷さん、そしてなによりも、阿波踊りから海にやき餅を投げるエンディングまでのシークエンスの騒乱と傷心が欲しかった。あれがあったからこそ「集金旅行」が心に残り、この「集金旅行」のハッピーな終わりが物足りなくてしかたなかったのだ。肝心な作品を観る心を失っていた、まったく未熟な観劇となってしまった。

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