1月12日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで今井正監督の「ここに泉あり」を観る。
広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで今井正監督の「ここに泉あり」を観る。
1955年(昭和30年) 中央映画 150分 白黒 35mm
監督:今井正
脚本:水木洋子
撮影:中尾駿一郎
美術:川島泰造
音楽:團伊玖磨
出演:岸恵子、岡田英次、小林桂樹、山田耕筰、三井弘次、加東大介、草笛光子、室井摩耶子、伊沢一郎、中村是好、東野英治郎、沢村貞子、千石規子、十朱久雄、増田順二
今回の「シネマ&ミュージック 音楽映画の特集」で上映される作品のなかで、わりにすんなりと親しめそうな映画が今日のフィルムだと思っていた。音楽は團伊玖磨さんで、特別出演にピアニストの室井摩耶子さんと山田耕筰さんも登場していた。楽曲は聴いたことのある曲から、わからないものまで多くが使われていた。
合同演奏会や後半の演奏シーンなど、映画作品と言うよりも音楽演奏の映像やクラシック音楽の楽器紹介もあったので、やや長いと思わせるシークエンスはあるが、この時代にこの作品が生み出された背景や経緯を考えると、啓蒙としての意味合いも含まれているのだろう。
群馬交響楽団をモデルにしたとあるが、今現在ではインドの列車に見られるかもしれない人々が屋根まで積載された汽車の、前面から長い列を捉えた冒頭のショットからこの映画にかける意気込みと、スケールを感じられた。
はたしてその予感したスケールの大きさは合っていたのかわからないが、お高く洒落たクラシック音楽と思われるも、実際のところ非常にアスリートらしい側面があり、商業的に成り立たせるには難しい芸術の分野として陰の努力に徹しなければならない厳しく泥臭い面もある。インスタレーションなどの現代アートの製作も同様に、イメージする形を表すために非常に地味で単純な作業に長時間を費やす。稽古と反復、練習と継続、これ以外に表現を高める方法はない。
手に職を持ちながらのアマチュアの楽団に、いったい何ができるだろうか。この映画は地方創生と呼ばれる今よりも昔に、音楽を地方に根付かせて豊かな心と人間性を育むために奮闘する人々が描かれている。それは都心部に比べて断然難しく、東京だけにヒップホップ文化が存在すると思っていた高校生の時に、名古屋、熊本、北海道などで活動するアーティストが出てきた頃を思い出させる。
映画の登場人物の働きぶりも必死だが、登場する役者達の味の深さも古い日本映画の特徴として存在する。小林桂樹さんをはじめ、加東大介さんや、三井弘次さん、東野英治郎さんなど画面にいると安心する人達もいれば、図抜けて綺麗というわけではないが、サザエさんらしい髪型に丸顔の岸恵子さんも、慣れてくると笑顔や悲しむ顔にわかりやすさではない美点が見えてくる。
最近の自分の心境も含めて、この映画からは力強さが一番のメッセージとして伝わってくる。いったい何が正しいのか、継続の中にあって結果は見えず、むしろやってくるのは期待とは裏腹のことだったりして、芸術としての理想に、現実としての金銭が一番困難な問題として突き上がってくる。
信念なんて言葉がすぐに処方として浮かんでくるも、それを服薬できるかは自分の強さにかかっている。一人で耐えようとするのが基本で、それができないなら素直に誰かを頼るべきだろう。そんなことを考えさせられてしまう。
今でもクラシック音楽を聴く人はそう多くない。それよりもずっと少なかった時代での頑張りに励まされ、意味なくても、自分に意味を持たせてくれる映画だった。結局、生きる意味は授けられるのではなく、自分で見出すのだ。それはどこにいても変わらない。
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