1月10日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで斎藤寅次郎監督の「東京キッド」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで斎藤寅次郎監督の「東京キッド」を観る。


1950年(昭和25年) 松竹(大船) 81分 白黒 35mm


監督:斎藤寅次郎

脚色:伏見晁

原作:長瀬喜伴

撮影:長岡博之

美術:浜田辰雄

音楽:万城目正

出演:美空ひばり、川田晴久、高杉妙子、花菱アチャコ、堺駿二、水島光代、坂本武、西條鮎子、磯野秋雄、榎本健一、大杉陽一、小藤田正一、山本多美


子供の美空ひばりさんが前日に観た「悲しき口笛」の役を交換するように女の子の衣装から男の子へと取り替える。「おじちゃぁぁん」と呼ぶ声も、顔をくしゃっとする演技も、それほど異なったところはない。野村芳太郎監督の「伊豆の踊子」では拙いと思えた演技の質は率直さにあり、卓越した技量よりもありのままを味わわせるようで、自然にある愛嬌はまるで嫌味がない。


ただ美空ひばりさんがスクリーンに現れると、どうしても歌声を待ってしまうのは避けられない。この人の才能は演技にはなく、どうしても極端なレベルにある歌だからしかたないのだろう。それでも歌と踊りになると、演技力が歌唱に引き上げられて並々ならぬ表現力を見せる。


物語の筋や構成よりも、演出と役者に見どころがある映画だ。戦後らしい細い足をした川田晴久さんの兄貴っぷり、威容が大阪芸人の神仏のような姿した花菱アチャコさん、精密でかつ見事に狂う榎本健一さんなど、登場人物のアクがどれも群を抜いている。


溺れた人間の腹を押して噴水のように口から水が出たり、踊ってアパートの窓から落下して門松のように足だけが地面に生えたり、漫画で見たことのある絵図がそのまま実写にされていて、くだらないからこそ笑えるシーンが随所にあった。


個性豊かな人物による気楽な映画は、昭和に名を残す芸を持った人達の鷹揚な気風があり、陽気な裏にある気骨の強さは今の人間ではとても敵わないと思えるほどだ。

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