12月28日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで三村明監督の「消えた中隊」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで三村明監督の「消えた中隊」を観る。


1955年(昭和30年) 日活 93分 白黒 Blu-ray


監督・撮影:三村明

原作:井手雅人

脚本:黒澤明、菊島隆三

音楽:大森盛太郎

美術:高田一郎

出演:辰巳柳太郎、河村憲一郎、松木悟郎、大山克巳、清水彰、石山健二郎、東大二郎、島田正吾、島崎雪子、沢耕二、梅原道子


流れる川の面を前景に、遠くの後景には土手を横に小さい隊列がよろめくように並んで歩いている。流れる音楽は「ヴォルガの舟歌」で、荒川かと思うも、どの川も持つ側面をただ知っている河川に置き換えただけだった。オープニングのショットが切り替わると、稜線が立派な威容を象っている山脈に取り囲まれているような場所だとわかり、関東平野ではない大陸のどこか、それはロシアの歌と疲れ切った日本兵の縦隊に、監視するように歩く少数の西洋の兵隊によって位置は定められる。


ロケ地は長野の軽井沢とあるが、砂埃の混じったようなモノクロ映像に山々を背景に入れたショットを繋ぎ、人間の小ささを見せる広大な土地らしい画面が関東軍のいる場所だと信じさせる。部落を遠くに写すロングショットには、日本の川なのだろうが黒竜江らしい水面の反照があり、昨日観た「ハワイの夜」とは異なり、本物の場所によって作品が軽くなるのではなく、異なった場所による徹底した重みが本物の質を纏っている。


兵隊の存在意義を問う内容となっており、機械的な兵士から逸れた河村憲一郎さん演じる中尉は農民のようであり、土地を追われてきた異国の人々とキリスト教との関わりも交えて、ソ連と対峙する緊張状態にある北満州の監視哨に貧しくもユートピアらしい空気を作り出していた。この姿は強権の使いらしい辰巳柳太郎さん演じる大尉の模範的な兵隊像を滑稽に浮かび上がらせているも、後々の物語の括り方を知ると、人間性の正しさが悲劇を生み出すという不条理に笑われた強烈なアイロニーによって、心は沈んでしまう。特に訛りの酷い口調で最も素晴らしい愛らしさを見せていた中尉が、監視塔と共にあっけなく木っ端微塵にされる瞬間的なショットには情感を覚える前にただ唖然としてしまう。


この作品の基調はオープニングからエンディングまで変わらず、カメラマンである三村明さんの腕前は画面を一定した説得力で統一し続けている。偉大な映画監督と共にした経験が自然に本物の作品を生み出すようで、繰り返し通り過ぎる軍用車、それを眺める人々の連続は個性的な執拗さがあり、夜の川で泣いている子供を助けるシークエンスは、戦争の中の人間性が凝縮されていた。素朴に貫いた人は消え、葛藤し続た人間は、なおも苦悩の中を歩き続ける。

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