12月8日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで板屋宏幸監督の「もういちど」を観る。
広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで板屋宏幸監督の「もういちど」を観る。
2014年(平成26年) 「もういちど」製作委員会 95分 カラー Blu-ray 日本語字幕 音声ガイド
監督・脚本:板屋宏幸
撮影:古川誠
美術:畠山雄一
音楽:福田裕彦
出演:林家たい平、福崎那由他、富田靖子、ゴリ、大野百花、渡辺正行、小倉久寛、熊谷真実、三遊亭金馬
障害者週間にあわせてバリアフリー映画が映像文化ライブラリーで特集されていて、今日の映画は音声ガイドと日本語字幕がついていた。これらは目的合っての補助であるから、それに合う状態でなければ純粋な映画観賞においての過分な情報となりうるものかもしれないが、今日は普段とは異なる感覚に頼って日本語音声でありながら、字幕を追い、音声ガイドを聴いている自分がいた。
音声吹き替えの時点で一切の興味を失う好みだから、仮に良質な映画作品ならば貴重な第一印象を乱す補助に戸惑っていたかもしれないが、この日の作品は、落語を知りつつ現在の状況からやり直すことに重きの置かれた絵本のような作品だから、あれこれ言うのではなく、素直に受け取るままが良いのだろう。
とはいえ少し気づいた点を言えば、普段まったくテレビと今の日本映画を観ない自分だから、ドラマの作りなどは知らないが、年末年始に帰省したさいに観るテレビだけの印象で、NHKのドラマを観るような画面を感じた。鮮明な空気感と外光の浮かぶ清潔な演出で、生々しさのないセットはあくまで作り物らしく、それは江戸らしい風情を残さない台詞や演技も同様にあり、真剣と本物から遠く離れたわかりやすいお芝居なのだろう。遠望する深川の景色や、寒さを感じない白い吐息、汚れと臭さのない大川岸など、CGの質感をどこまで許せるかは好みの分かれるところだ。古い映画に見慣れた自分の目には、あまりにも異なった世界に映る。
見所は、富田靖子さんの美しい額と笑顔の優しい母性、昔のテレビ番組で観たバラエティそのままのゴリさん、「マンザナ」の舞台で素晴らしかった熊谷真美さんの母親役、頑張って落語を演じた福崎那由多さん、笑点以外では知らなかった林家たい平さんの落語姿、それに4代目山遊亭金馬さんの蕎麦をすする姿などだろう。「藪入り」を軸に落語の演目を継ぎ接ぎした物語は、親子の愛に世間のお節介な人情と、何かを変えて生きようとする一個人の感動すべきたくましさが描かれている。
この映画の締めは古今亭菊志んさんでも観た「藪入り」で、子を持つ親、親を持つ子ならば誰でも同情できる涙ぐましくそそっかしい人情噺を、林家たい平さんが熱演している。
噺家の修行風景を観ることができるかもと思って来たものの、それは本当の姿ではかなわず、少ない道具で世界を演じる自立した役者の、いわば便所のような完璧なプライベートな芸としての厳しさと質の高さを、この映画の裏側から感じることができる。
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