12月1日(日) 広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センター・小ホールで「デュオ・ガイツコンサート 2019」を聴く。

広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センター・小ホールで「デュオ・ガイツコンサート 2019」を聴く。


ギター:上垣内寿光

チェロ:川岡光一


サン・サーンス:白鳥

ファリャ:スペイン舞曲 第1番

ブルグミュラー:3つのノクターン 第1曲

ピアソラ:リベルタンゴ

ピアソラ:アヴェマリア

ピアソラ:キーチョ

キング・クリムゾン:21世紀のスキッツォイドマン

ジョン・ウィリアムズ:シンドラーのリスト

ジミ・ヘンドリックス:パープルヘイズ

レッド・ツェッペリン:天国の階段

アンコール

中国民謡 賽馬

曲名わからず


以前、エリザベト音楽大学での朴葵姫さんのソロリサイタルで一緒に演奏していたのが上垣内寿光さんで、機会を得ることができたのでようやく聴きに行けた。


昼過ぎまで観ていた消化不良のMETライブビューイングの影響で偏頭痛が止まず、寒気と暑さを同時に覚える自律神経の不具合のまま会場へ行く。久し振りに生のギター演奏を聴けるというので、事前学習のように持っているギター曲の音源でナルシソ・イエペスの「禁じられた遊び」を聴いていく。雨の降る前のどんよりした寒空の下の頭の痛さに、憂愁のギターの音色はなんと染みることだろう。会場に到着するも開演時間を30分間違えていたので、のんびりと待つ。途中でギター曲が終わってしまったので、ipod・classicを適当に指でなぞると、堤剛さんの「現代チェロ作品集」にとまる。自然と今日の楽器の音色を予習するようになる。


プログラムには書かれていないサン・サーンスの「白鳥」から始まり、川岡さんの雄々しいフレージングに立派な音楽を聴く。明るく歌うようではなく、圧の強い重厚な音色が直に体に響いてくる。チェロに比べれば音量の差がある上垣内のギターはアンプが通されるも、自然と音は聴こえていて、チェロの悠然とした歌いまわしを金属の冷たい切なさを感じるなんともいえないギター特有の音色で伴奏している。


チェロは室内楽で聴くことは時折あるが、ギターは随分と久し振りで、いや、フラメンコを観に行った時も聴いたが、なぜか今日はイヤホンで聴く音色の生々しさを立体的な音の粒で感じて、孤高の楽器という印象が強まった。ファリャの「スペイン舞曲」で期待していたニュアンスは手に入れることができて、いつの間にバンドネオン同様にこの楽器の独特な魅力を好むようになっているらしく、気温はだいぶ異なるのにスペインの乾燥した雰囲気が今の季節の乾きと通底して感じられるようで、一音を長く響かせることの出来ない楽器特有のはかない喪失感が、肉厚はないが細くも芯のある、時には多重な線で響く骨身のある音が心に染みた。


前半はナイーブで憂鬱なブルグミュラーと、激しくかき鳴らされるギターに、ロックのように痺れるチェロの分厚い音色の入りがたまらなかったピアソラが色々と表情を見せていた。


後半はロックをアレンジした曲があり、スモーキーでソウルフルな演奏が多かった。知らなかったキング・クリムゾンは特に分厚い唇に葉巻がくゆるような印象で、シンドラーのリストは先週のNHKの放送でロサンゼルス交響楽団とドゥダメルに三浦春馬さんが演奏していたのを聴いていたので、哀切なチェロの歌いまわしはヴァイオリンに比べると肉体的な悲嘆を感じるものだった。ジミ・ヘンドリックスの「パープルヘイズ」はさすがに大好きな曲だから知っており、アレンジの仕方がとても興味深く、歌声よりもずっと歌の上手なチェロの音色が綺麗で面白かった。空へと駆け上る中国特有の疾走感が素晴らしかったアンコールの中国民謡は、旋法とリズムがチェロを二胡に、ギターを月琴に、楽器と音色を間違った印象に錯覚させる時間があった。


熱の入った演奏とはこういうことであるとずっと示していた川岡さんのチェロの音色は厚く素晴らしく、神経が集中した細かやな演奏ではあるが時に激しく切り裂くパッションが冷静に発露する上垣内さんのギターが幅広く気を配っていて、ただ単にチェロとギターのデュオだけでなく、この2人だから生み出せるグルーブと音楽性があるのだと一体感ある演奏に情感は上下に揺さぶられた。個人的に特に良かったのはレッド・ツェッペリンの「天国の階段」で、原曲は知っているようで知らないからどのようにアレンジしたか判別つかないが、ギターの音色に昔の漫画の「特攻の拓」をなぜか思い出した。多分曲名がそうさせたのだろうが、この曲のギターの音色が、この弦楽器にしかない色を最も好ましく感じることができた。


音色を存分に味わえる緊密な演奏会で、クラシック音楽だから情熱がないということはなく、演奏に没入する深さはどの音楽でも変わらないだろう。雨が降り始めた外を歩いていて、偏頭痛がまったくなく、湿った臭いと和らいだ寒さが柔らかく感じた。音楽は本当に良いものだ。

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