11月26日(火) 広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センター・大広間で「生地広島で 上方落語 九雀亭」を観る。

広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センター・大広間で「生地広島で 上方落語 九雀亭」を観る。


桂 九雀


へっつい盗人

淀の鯉

秋刀魚芝居

質屋蔵


上方落語があると教えてもらって足を運んでみると、畳の敷かれた大広間は予想していたよりも広くなく、席数もそう多くはなく、靴を脱いであがり、一日の肉体労働の汗が染み込んだ靴下をさらすことになって、替えを持ってくればと後悔した。


噺家との距離が近ければアットホームな雰囲気と言いそうになるが、広いホールでも観客を引き込めばそのように形容できるだろう。ホームにも色々な雰囲気があるので、今日の寄席は育ちの良い家族関係のようで、話す方も聞く方も分別をわきまえて、ぎゃあぎゃあする下品な感じはなかった。とはいえ、そんな寄席はあまり経験したことなく、来場者が増えればそれだけ色々な人にできあがる結果として、何でも笑い続ける赤子のような人も出てくるのだろう。


九雀さんは2代目桂枝雀さんの弟子として歳も重ねているので、知る人は知っているだろうが、初めて見知りする自分は、チラシで拝見した顔と違ってもっと柔らかく、思ったよりも年季のある風貌に映った。


上がる予定だった葡萄亭わいんさんが体調を崩されていたので、その分は九雀さんが努めた。ラジオでも演劇でも、この日には予定通り出演できない話をいくつか耳に挟んだので、体調管理は本当に難しいと感じてしまう。


率直に言うと贅沢な寄席だった。目鼻立ちが整っていて、輪郭の定まった表情が作り易いと思いそうになるが、演じ分けが実にはっきりしていて、その日の高座でいくつかの演目を同じ噺家さんが演じていて、大家さんや隠居さんが似たような場合などが見受けられることもあるが、そんな曖昧なところはなく、各人物がきっぱりと分かれていた。


「秋刀魚芝居」の網元の荒っぽさは自分にとって目新しい人物で、今でも地方にいるような人間をまざまざと実感することができた。また、前にも経験したことはあったのかもしれないが覚えておらず、生のお囃子さんが入る上方落語は初めてなので、三味線がちょっと鳴らされると情景はがらっと変わって、なんだか色っぽいというか艶っぽい雰囲気の漂う感じがした。


駄洒落の繰り返されるのではなく、演目の理解となる話をうまく組み込んでマクラが話され、派手な笑いや糸切るような可笑しさはなくとも、ふふふふふ、と、ははははは、による気味の良い笑いを起こすので、品の良さと味わい深さに染められていた。


「質屋蔵」の人物関係が順々に繰り出されてから、三番蔵のお化けたちの舞台も良かったが、3代目桂米朝さんが若い時の中川清という名で書いた「淀の鯉」がおもしろく、のっけから雀の焼き鳥が降ってくる暑さを持ってきて、塩とタレで分けるなんて、落語らしいエスプリが利いていた。包丁が川に落ちるくだりは、幼児も笑えるわかりやすさがあったのでついつい笑い続けてしまい、子供の時の3チャンネルで観た「およげ!たいやきくん」の絵が浮かんでしまうほどだった。


桂雀々さん以来の上方落語は、これほど品があるのかと目から鱗の噺だった。関東の話し言葉で育った自分にとって語り口調は確かに早いが、それは慌ただしい感じがなく、むしろ落ち着きの中の速度であって、自然となり、関西の言葉はいいなと今更に知るばかりだった。


少ない中で目の前に観る風情は良いもので、行ったことなどないが、会員制の店で秘密裏に楽しむような希少性は、芸の高さによるのが本当のところだろう。実に良かった。

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