11月24日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで是枝裕和監督の「幻の光」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで是枝裕和監督の「幻の光」を観る。


1995年(平成7年) テレビマンユニオン 110分 カラー 35mm


監督:是枝裕和

原作:宮本輝

脚色:荻田芳久

撮影:中堀正夫

衣装:北村道子

音楽:チェン・ミンジャン

美術:部谷京子

出演:江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柏山剛毅、渡辺奈臣、木内みどり、柄本明

、桜むつ子、赤井英和、市田ひろみ、寺田農、大杉漣


一昨日から広島国際映画祭2019が開催されているものの、予定が合わないというのを含めて神経が行き届かず、最終日に一作品を観るのみになった。昨日の午前は大林宣彦監督の作品を観に行く予定を入れていたが、意気が挫けてしまい、家でごろごろしてしまった。チラシを今さら読めば、上映終了後に監督のトークを予定していると書かれてあり、今になってもったいないことをしたと後悔した。


というのも、是枝裕和監督の「幻の光」が素晴らしく、この作品の美術監督であり、広島国際映画祭代表でもある部谷京子さんと、横川シネマで上映される「モンテ」の監督アミール・ナデリさんのアフタートークが興味深い内容だったからだ。今になってプログラムに目を通せば、今で良かったと思われるほど体と気力が足りない時間割になっていて、予定を悩ましく計算する必要はあっただろうが、全部とはいわずに少しでも足を伸ばせば、どれもが良い体験になっただろうと思われる。やはりもったいないことをした。


とはいえ、是枝裕和監督を知れただけでも大きな収穫だ。「万引き家族」が話題となり、映画館で上映されていても意味のない偏見で足を伸ばさずに見逃していたが、これまたもったいないことをしたと思わされた。昔からの本当の映画好きではなく、ただ広島市映像文化ライブラリーに足を運ぶだけの受動的な態度だから、膨大な量の映画作品があるも主に映像文化ライブラリーの経験ばかりだから、是枝監督をまったく知らずにいた。ところがこれほど優れた映画をデビュー作で生み出すのだから、恐れ入った。


ドキュメンタリー出身の映画監督という経歴は何で知ったのか、RCCラジオだったか、忘れたがそんな先入観はあまり意味がないように思われた。制作過程と手法がどのようにあるかよりも、定規で測っただけでなく、神の視点と思われるほど空間とレンズを掌握していて、予知能力があるのではないかと疑うほど、ワンカットごとが驚異のレベルで切り取られていた。アフタートークでナデリさんが語っていたように、小津安二郎監督の系譜にいるような要素は見受けられるが、模倣の段階はとっくに消化していて、あくまで独自の表現を確立した中で余裕を持って形式を選択しているだけであって、驚くべき完成度が大胆に表現されていた。


登場人物の象徴的な黒い衣服や、風景にある音の使用などは気になっていた通りアフタートークでも話されていたが、天然の中での線と色彩感覚が研ぎ澄まされており、不自然に違いない完璧な構図の各カットは自然と思わせられる決然とした説得の連続にあるので、違和感がまるでない。そこに押しつけがましさはなく、さりげない情感の抽出が恐るべき無駄の無さと驚異の編集によって組み合わされていて、普通が通り越してまるで普通に感じず、どうしたらこんなカットが撮れるのかと、何度も畏怖を覚えた。湖面のような田の畦道を走る二人の子供、雪の残る中の廃船での男の子のセリフ、階段掃除に射す光と埃など、数え上げればきりがない。その中でも特に凄かったのが、俯瞰する葬列の中での雪の吹き、水平線と等線の葬列のロングショット、火と煙に水面の反射の中での段階的な編集のあとの、長いカットとこのうえない情感を持った静かな右へのパンショットなど、ポエティックな絵画の連続による傑出した見本作品となっていた。


今の日本にこれほど素晴らしい監督が存在することが非常に嬉しくなるも、自分はいかに映画を知らないかも思い知らされた。とはいえ、知ろうとするも、先の見えない量に後退を感じてしまうだろう。狭い範囲内での喜びくらいが適当なのかもしれない。

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