11月17日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで周防正行監督の「Shall we ダンス?」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで周防正行監督の「Shall we ダンス?」を観る。


1996年(平成8年) KADOKAWA、日本テレビ、博報堂DYメディアパートナーズ、日販 136分 カラー 35mm


監督・脚本・原案:周防正行

音楽:周防義和

撮影:栢野直樹

出演:役所広司、草刈民代、原日出子、竹中直人、田口浩正、徳井優、渡辺えり子、草村礼子、柄本明


観たことはなかったがさすがに名前を知っている作品で、公開された年を見ると自分がHIPHOPにのめり込んでダンスを始める前になり、仮にこの映画を観ていたならば、こちらの踊りをしていただろうか。まずないだろう。


しかし今になって観てみれば、体がうずいてしかたない。名作といわれるイタリアやポーランド、最近ならグルジアの映画でワルツのシーンを観て心は何度も踊っていたので、仮に自分が役所広司さん演じる杉山ならば、間違いなく女性目当てで社交ダンスを習いにいくだろう。この映画はそんなささやかな不純な夢を、純粋に見させてくれる罪のない作品だ。ところが、自分は杉山のように真面目に働いてこなかったので、マイホームもなければ子もおらず、幸いなことに楽しい妻がいるのみで、その当人は昨日はドイツ人によるロシアの踊りを動画で観て踊り、その前の日はクメールミュージックを聴いて陽気に踊っていたので、わざわざ社交ダンスを習いに行くような虚無感は存在せず、階下の人をちょっと気にする笑いが窓外の景色に目を向けさせないだろう。


社交ダンスの啓蒙作品のような説明らしいカットが何点かあるも、それは映画の内容をより詳しく楽しむ為の基礎情報として必要なのだろう。社交ダンスの種目を説明されても頭に入らないのは登場人物の反応と同じで、大切なのはルンバそのものになっている竹中直人さんと、燕尾服を着て踊る姿が様になっている役所さんの大会でうまくいったワルツと、悲惨なアクシデントに終わったクイックステップを登場人物から知るので十分だ。


派手さよりも穏やかな味わいの役所さんの演技が滲むなかで、竹中さんと渡辺さんはあまりに過激なコメディの要素が弾けているので、目立って硬さのある草刈さんは垢抜けておらず、それがかえって柔軟さの欠ける役柄にうまく合わさったのだろう。不器用な表情と目の動きの前半から、後半でのはにかみや声をあげる喜びは、とても嬉しい溶融を感じられる


とにかく社交ダンスを習いに行きたくなるとても良い映画作品で、あれこれ言う必要もないのだろう。自分のことばかり考えずに、ちょっと身近な人に目を向けて、向かい合う大切さを教えてくれる。それが必然と自分との向かい合いなる。


ちょっと調べれば、この上映後のディレクターズ・トークに登場する周防正行監督はこの作品が縁で草刈さんとご結婚されて、今も仲の良い関係にあるらしい。用事があって講演を聴くことはできないのがとても残念だが、そんな関係を念頭に置き、少しの間は毎日を過ごしてみようと思う。ただし階下の住人の迷惑にならない程度に、陽気な音楽をかけて馬鹿みたいに踊るくらいで。イメージ通り、そんな幸せな気分にさせてくれる映画だ。

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