10月27日(日) 広島市中区鶴見町にある日本福音ルーテル広島教会で「ゲルンスハイムデュオ 来日公演2019 忘れられた歌」を観る。
広島市中区鶴見町にある日本福音ルーテル広島教会で「ゲルンスハイムデュオ 来日公演2019 忘れられた歌」を観る。
ピアノ:クリスト加藤尚子
ソプラノ:アナ・ガン
フリードリッヒ・ゲルンスハイム
願い
おまえを打つよ、私のタンバリン
おいで、娘さん、君の窓辺へ
昔一人の年老いた王様が
来て、愛しい人よ
歌
彼女は恋人を黙って見つめた
暴風に
メロディー
死の天使
夕べの歌
カール・ゴルトマルク
ナイチンゲール
反抗
解放
ゲオルギーネへ
ザーロモン・ヤーダスゾーン
Andante quasi Allegretto non troppo vivo
手紙
おやすみ
ボヘミア民謡
モーリス・ラヴェル
カディッシュ
アンコール
ブラームス
子守歌
チラシを手に取った時に“ホロコーストによって忘れられてしまったユダヤ人作曲家たちの隠されていた宝石のようなドイツ歌曲をお届けします”という文章を見て、殺された作曲家達のユダヤの旋律や音階を持った曲が歌われるのだと思った。
それは早とちりで、歌われる3人のユダヤ人作曲家はホロコーストの起こる前に亡くなっており、直接の被害者ではないのだ。あの文章の意味することは、ユダヤ民族だけでなく文化も抹殺するというホロコーストによって、楽譜なども含めた書物や記録の大量処分によって作品が失われてしまい、殺され忘れられてしまったということだそうだ。盗み聞きのように、人の話しているのが聞こえてしまった内容によると、大きな図書館では消失しているので、地方の小さい図書館などから探されたとのことだ。
演奏が始まると、今回のプログラムではユダヤ人ではないラヴェルの「カディシュ」という曲だけがユダヤらしい歌い回しや旋律があるのみで、3人のユダヤ人作曲家の作品はどれもロマン主義らしい叙情に溢れた素朴な音楽となっていた。宝石のようなという形容はぴたりとはまり、時折聴くジャック・ブレルのシャンソンを思い出すように、詩の内容を大きく膨らませる音楽にのせて優れた演技による再現力のある歌声が通り、情感はあふれ出し、情景が直截に喚起される。それは民謡やポップスを聴いてたやすく情動がわき起こるようにとても親しみやすく、それでいて音楽性の高い美しさが備わっていた。言葉を理解できるなら詩の効果は大きく包み込んでくれるだろう。そんな望みを果たせなくても、日本語訳を手にして、歌と共に一字一句を追うのではなく、歌われる内容を大まかに目を通して前を向いていれば、歌い手であるアナ・ガンさんが体と声で伝えてくれる。
この作曲家達の作品を探したのは演奏する2人で、今回の公演とツアーを企画したのも同様に2人だそうだ。淑やかに経緯を解説してくれたクリスト加藤さんだが、その秘めた情熱と使命感はひしひしと伝わってきて、音楽への尊い愛情を強く感じるものだった。当然録音や他の演奏を参考にすることなどないので、2人が解釈して表現するという最初の見本となっており、それはとても自然で、穏やかで、優しい音楽が一貫していた。
決して難しくなく、ユダヤとホロコーストという言葉が喚起させる悲劇めいた印象もなく、純粋な音楽として様々な歌が昔の人々を再生していた。それは個人の小さな人生の一幕で、瑞々しく、香り高く、時には暗くあるも、悲喜交交とした小さな雫の味わいだった。
広島市映像文化ライブラリーでのグルジア映画祭で、眠ったフィルムを蘇らせる人々の存在を知った事を思い出した。3人の作曲家は2人の活動を知ったらどんな反応をするだろうか。気に留めずに存在している物事は、如何なものだろうか。
陽の目に当たった歌曲達は、喜ばしく輝いて聴こえた。2人の意味深い活動に敬意を覚えつつ、無垢な音楽への思いが何よりも眩しかった。
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