10月10日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでキム・サンマン監督の「ザ・テノール 真実の物語」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでキム・サンマン監督の「ザ・テノール 真実の物語」を観る。


2014年 韓国、日本 121分 カラー Blu-ray 日本語字幕


監督・脚本:キム・サンマン

撮影:ジュ・ソンリム

音楽:キム・ジュンソン

出演:ユ・ジテ、伊勢谷友介、チェ・イェリョン、北乃きい、ナターシャ・タプスコビッチ、ティツィアーナ・ドゥカーティ


「韓国映画特集 in 広島」の最後にこの作品が配置されていることと、この物語が実話であることが最も大切だろう。


各カットは明確な表現によって映し取られていて、採光、絞り、揺れ、音のフィルターなど、場面に適した使われ方をなされ、とにかく見やすく出来上がっている。物語の主題となる努力に対しての見解や諦めない意志なども、前半から登場するシニカルに見えるオペラ歌手の女性に移されていて、本当に相手のことを思っているからこそ現実を直視しなければならないと問いかけるように冷笑する。


登場する日本人は清潔なほど真っ直ぐな心の持ち主として描かれ、北乃きいさん演じる女の子は音楽は心で歌うものという精神が具現化されたまま動き、伊勢谷友介さん演じるプロデューサーは猪突的な友情によって支え続ける。一方、切れ長の目が涼しいチェ・イェリョンさん演じる妻は自身が歌を諦めた経験があるからこそ信じることの狭間で揺れ続ける繊細な姿が描かれていて、ユ・ジテさん演じる歌えなくなった男は、才能だけでなく強い本音があるからこそ最高のテノール歌手になったのであり、その反動がやり場のないまま自身を蝕んでいく姿を演じている。


ただそれらは、観る物にストレスを感じさせるほど肉薄した描かれ方ではなく、やや説明的な日本のドラマや映画の持つ人の良さが和合している。多くの人に大切なことを知ってもらう為には、先鋭的で個性的な表現は必要とされず、やや冗長に思えるラストシーンへ繋がる溜めや、舞台上で開かれた時の扇情的なシークエンスは常套手段に思えるわざとらしさを幾分感じてしまうが、ただそれらをつつくのは、この映画の制作意図と、この韓国特集に置かれた意味を濁すことでしかないない。


不屈の心に、努力と友愛、メッセージは直に受け止めるばかりでいいと、舞台上で手を繋ぐ二人の男性を目にして思う。


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