10月4日(金) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島交響楽団 ディスカバリー・シリーズ Hosokawa×BeethovenⅡ」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島交響楽団 ディスカバリー・シリーズ Hosokawa×BeethovenⅡ」を聴く。


音楽総監督:下野竜也

管弦楽:広島交響楽団

ピアノ:児玉桃

コンサートミストレス:蔵川瑠美


ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲 第2番

細川俊夫:月夜の蓮 ─モーツァルトへのオマージュ ピアノとオーケストラのための

ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調

アンコール

ベートーヴェン:月光 1.mov(野本洋介編曲)


前回のディスカバリーシリーズを聴いたのがずいぶん昔のように思えた。今回も一昨年から変わらずの2階席で、定期演奏会とは異なった位置での音の響きを楽しんだ。


「レオノーレ」の序曲第2番は重厚な響きで始まり、華やかさはなく、まるで葬送曲のように沈鬱な足取りで最初は進行していくも、徐々に展開されて勇壮な響きも表れて、複雑な色合いを見せていた。後々に下野さんの解説を聞いて、このオペラ作品の内容をうまく反映しているという意味の事をおっしゃっていて、その通りだと思った。6年前くらいにオペラ「フィデリオ」のDVD映像を観た時も、女性が勇気を持って夫を助け出す物語は、ベートーヴェンの資質が全面に表れているように思えた。コケットリーな女性がひらひらと笑いながら走り回る作品に音楽をつけることなど考えられない作曲家らしく、困難に立ち向かっていく人間の崇高な姿が曲にまとめられていた。


細川さんの曲を聴く度に、自分はこの人の作る曲が好きなのだと実感して、広島に住んでいることの利点の1つとして、少なくない頻度で細川さんの作品に生で接することができると、繰り返し書いてしまう。細川さん本人の曲の紹介で、ベートーヴェンの音楽を“理”とするなら、自分の作品には東洋独自の文化の特徴である“気”という考え方を根元に表現している、そのような意味の言葉があり、カリグラフィーという言葉で曲を解説されていた以前を思い出した。今回の演奏会でも、蓮の花のメタファーと、宇宙的な視点による物と物の因果性をその音楽に感じることはできたが、意図とする着想をこのような音色で表す力量は並ではない。数字としての構造物よりも、より生命の生成を実感させる音の脈動と変遷は明確に潜んでいて、いつも思うことだが、わかりづらい現代音楽ではなく、数学的頭脳の理知ではなくても、やはりDNAらしき計算の基に作られた知が音楽を奏でるように配列していて、純然とした生物としての音楽が存在している。こういう味わいを体で感じると、論理的な文脈の呼応ばかりに目を向けるのではなく、1+1が5になるような不正解の味わいの呼吸そのものが生きて存在する意味もわかるような気がする。


細川さんのあとのベートーヴェンの交響曲は、レオノーレではすんなりと聴けていたのが、こうも数字の配列が見事になされているのだと音の粒の一つ一つが見えていた。古典的なイメージのある曲で、あまり聴き慣れていないが、悪い印象は持っていなかった。その通りで、厚みのある弦の響きが軽快に進行していて、第一楽章では、軽騎兵、ヴィスコンティ監督の「山猫」のアラン・ドロン、「失われた時を求めて」のサン=ルーがイメージされた。若気と野心のあるダンディな青年像が浮かびながらも、かすかに強引さも聴こえてくるのは、向こう見ずで傲岸な推進力を持ち、作曲家の当時の環境を知った気でいるから、余計な意味を自分勝手に添付しているようにも思える。希望に満ちたきらびやかな若さではなく、憂いを含みながら活発な炎が冷め切らずに飛び出すような、笛よりも、むしろ銃の似合う若者像が立脚している。


久しぶりの2階席と下野さんだからか、今日は音が力を持って聴こえてきた。ポーランドでの演奏旅行の影響があるのだろうか。ないわけではないだろうが、それだけで力をつけてきたとは浅はかに結びつけることはできない。すでに持っている技量と、今日のプログラムこそがこのような音の響きを出していたのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る