8月12日(月)13日(火) 瀬戸市仲切町にある宿「ゲストハウスますきち」に泊まる。

瀬戸市仲切町にある宿「ゲストハウスますきち」に泊まる。


万博で働いていた時に、オーストラリア帰りのバックパッカーの女性がいて、「まだ名古屋ではゲストハウスがないんですよ、だからやったらおもしろいと思うんです」と話していて、初めてそういう宿があることを知った。


ネットで宿を探すと、マンガ喫茶は安いが、名古屋にはそれほど安い宿がなく、お盆の連休前に探すからそうなのかわからないが、あの時に比べるとゲストハウスは生まれているらしいが、乱立しているわけではなさそうだ。常滑に行く前に名古屋で泊まろうと思ったが、土日祝日だけ営業しているこの瀬戸の宿に泊まることにした。


結果として、良い選択となった。まだ若いオーナー1人で経営していて、クラウドファンディングを使い、地域や人々から援助と協力を得るも、独力で古民家を基にした宿を作り上げた。300円ぐらい金を箱に入れれば、宿にあるお酒を好きに飲んでもいいという、今だけかもしれないが、自分にはたまらないシステムがあって、そのおかげで夜は2日間長々と、宿泊客やオーナーと話をした。


宿を始めるきっかけやこの場所を選んだ理由など、出身地や学歴も絡まって興味深く聴くことができた。自分が観光業に関わる仕事をしていなくても、妻が旅行にまつわる活動をしているので、つい接点を見つけて質問をしてしまう。


瀬戸というこの地域の特異性が際だった二日間で、個人事業としてのやきもの作りではなく、まるで産業革命の活気を呈した遠くない過去もあったという、大規模生産の大工場としての窯業こそ街の特色となっている。


戦後の活況と見事なまでの街の衰退があり、今は寂れている感じもするが、今はシャッターが目立つ商店街も昔は人にあふれていて、仕事を求めに各地から集まっていた。たしかにその名残は急造らしいトタンで作られた家屋の多さが示しているようだった。


観光地らしくない、ただそれだけで片づけられない幾つもの理由を教えてもらい、謎解きをするように原因が結果に結びついていった。窯元が作品を公開して売らない、小売りが少ない、それが他のやきものの産地と異なり、店回りして買う場所が乏しいのだ。それは小売りをしなくても何とかやっていけているから。今現在見られる現象は、瀬戸物の長い歴史がすべて説明してくれる。


特に面白かったのは、小学校の時は「瀬戸」と表紙に書かれた教科書で、道徳の授業のように「瀬戸」を学んでいたらしく、ちょうどその冊子を持っているというので見せてもらうと、小学校低学年にしてはあまりにも情報が記載されていて、大人こそ楽しめるほどの内容だった。西暦が書かれて、世界の動きと同時に、瀬戸の歴史の動きも書かれていた。当然、やきものができるまでの行程も説明されていた。量が多いのでざっと見るだけにすると、具体例によって特異な地域性をさらに教えてもらう。小学校はどこでも窯があり、授業では図工のように陶芸をして、暇な時間には生徒が土を取りに行って、形成されたものは先生が窯に入れて、出来上がりを見ては、こね方が甘いから気泡が入っていたなどの評価をくだすらしい。さらに給食は陶器で食べて、割ったら生徒自身が片づけて謝るらしい。もちろん部活でも陶芸部があったそうだ。


この窯文化はゴミの分別にもあるらしく、真偽のほどはわからないが、プラスチックなども燃えるゴミで出せるそうだ。たしかにペットボトルはゴミ箱に分けられていたが、ガラス瓶を除いて、食べ物の包装は一緒に燃えるゴミに捨てている。さらに電池になると、瓶や缶などのように取り決めがあるわけでもなく、捨てる方法が何も触れられていないらしい。この話を聞いて、窯文化があるから、何でも燃やすのだろうか、などと思ってしまった。


これらの話は宿のオーナーだけでなく、泊まりに来ていた地元の女性や、別の部屋に住み込んでいるライターさんの話でもある。


この古民家は明治の陶工の川本桝吉さんの邸宅だったらしく、パリ博覧会に出品したというこの人の作品は瀬戸の資料館かミュージアムにあるらしい。1日目に同じ部屋だった博物館好きの人は、混合ドミトリーの天井の板張りを自分の知らない名前で説明してくれて、おそらくとても良い部屋だったと推測していた。キッチンは太い梁があり、庭に面した廊下も、ハンモックのかかる場所の床のガラスなども、悪くない雰囲気があり、広間の寛いだ空間は、酒を飲みながらいつまでも話し続けられる居心地の良さで旅行者の尻を重たくしてしまう。それに珍しく、トイレの横にタイル張りの床で、男性専用の立って用をする便器があった。これは意外に楽で、酒を飲んでいる時などは助かるのだ。


2日続けて就寝時間は遅くなってしまったが、大阪弁で話し続ける博物館好きの、日本のあらゆる場所を訪れている美術館の苦手な男性や、タンクトップ姿が格好良く、綺麗で、高松のうどんがおいしかったと喜んでいた彫刻家の中国人学生に、瀬戸についての雑学と、北大と京大の寮の事情にやけに詳しいアーティスティックな女性、仙台出身のインターンで来ている女の子を連れてきた若いシェアハウス経営者の男性、一番しっかりしているような挨拶と喋りかたをするまだ子供の女性、瀬戸出身だが教科書の「瀬戸」を記憶に残していなかったライターの女性など、ゲストハウスに泊まる楽しさを存分に味わわせてもらった。


若いのに明確なビジョンと計画をもってゲストハウスを作ったオーナーは、こういう場を築きあげて、こうして自分に楽しい旅行の時間を提供したのだから、本当にたいしたものだと思う。良い宿だから、さらなる発展と、瀬戸の観光文化の広がりを期待したい。

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