8月12日(月) 愛知県へ旅行に行く。

愛知県へ旅行に行く。


松山と砥部を訪れた以来の遠出となり、久しぶりという実感はそれほどないが、夜行バスに乗り、ゲストハウスのドミトリーに泊まるので、旅行らしい日程となっている。


今回は、前々から狙いを定めていたクリムト展にあるシーレの作品を観ることと、瀬戸と常滑でやきものに触れることだ。


愛知は青春というよりも、大学のサークル活動を楽しんだような思い出があり、実際には大学での人との交流は出だしの新歓コンパで燃え尽きたが、二度とない若い時期の必修を愛知万博という敷地が果たしてくれた。


他の男との共同住み込みによる万博の仕事は、朝起きると契約している会社の車が迎えに来て、会場へ運ばれ、閉園したら車でマンスリーレオパレスに帰らされるという毎日で、一緒に働く契約アルバイトの人達は、名古屋の大学生に、バックパッカー経験の豊富な女性や、関東や関西、九州からわざわざ万博の仕事で来た人に、日本語を上手に話す年下の韓国人女性や、関連する大阪の鉄道会社のこてこての大阪弁など、関東を離れたことのなかった自分には日本と言葉が広がり、加えて万博内では顔に彫り物が入った上半身裸のマオリ族が歩いていたり、イベントに出演する踊り子さん達や、高校の同級生がチャリンコタクシーで通ったり、韓国語をやけに上手に話す年の離れた上司がいたりした。閉園後は、不定期にどこかのパビリオンでパーティーが開かれて、みんな口伝えで噂を聞いて集まり、国と人種の入り交じった万博関係者が酒を飲み、音楽をかけて大騒ぎして踊り、気軽に声を掛け合って国や園内の働いている場所を話しては、来園者などいない静かな夜の一画で、万博の裏の顔が盛り上がっていた。これはまさしく世界を広げる旅行であって、愛・地球博では、まさに酒によって人々は交流していた。その帰りに、暗く、灯りの静かな、涼しいグローバルループを酔って歩くのは、夢と儚さを強く感じる時間だった。


だから愛知という名は自分にとって特別で、住んでいた尾張旭は懐かしく、聞き慣れた瀬戸という地名も同様だが、やきものなど何一つ見たことはなかった。


萩で会ったスペイン人の芸術家は、常滑に住んでいると言っていた。トコナXがあまりに強い印象を残すその土地で、連絡先は交換しなかったから会う約束をしているわけではないが、夏みかんの花を嗅ぐと、セビージャのネロリの香りを思い出すと言っていた人物が、常滑をどのように見ているのか、昔と今を考えて町を歩いてみようと思う。


少しだけ懐古的な旅行になると、新しさよりも、昔を見ながら時間を過ごすことだろう。

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