8月6日(火) 広島市中区十日市町にあるカフェ「喫茶めくる」でめくるゴハンセットを食べる。

広島市中区十日市町にあるカフェ「喫茶めくる」でめくるゴハンセットを食べる。


台風が近づき、午前中は雨風があったので、週明けのこんな日に人々はわざわざランチに来ないだろうと、女性に人気のカフェへ再度足を運んでみた。


雨はとっくに止み、路面も乾きはじめているなかを歩いて向かうと、外で待っている人はおらず、中に入ると、満席で、と謝られて、なら大丈夫です、と伝えて、近くの「居心地酒場しゅん」の幕の内弁当を買いに行こうと戻ると、追いかけてきて、今帰られるお客様がいるので、と言うので待つことにした。こういう対応だけで、もう満足してしまう。


いくらその店が女性だらけであろうと、子供だらけのオペラを観るような場違いは感じない。天井から下がる乾いたカスミソウなどを見回して、大きな窓の入り口を眺めて待つ。目の前は寺で、門のカラフルな幕がチベットを思い出させる。


今日は原爆忌で、広島に来て何年目になるだろう。仕事前に気の遠くなる暑い平和記念公園で参加した記憶もあるが、今日は職場の最上階の、普段は誰も入らない部屋にひっそりと忍び込み、ベランダに出て、折り鶴タワーを目印に式典の方を向いて待つと、鐘の音が響いてきた。


数ヶ月前からCoccoの音楽を頻繁に聴くようになり、その中でも「ポロメリア」という曲が好きで少し調べたことがあり、とある人が言うには、原爆に関することを歌っているのではとあった。たしかに、めまいを覚えるほどの青い空、つながれた風も動き始める、強い光、影を焦げつかせて、などの言葉はある日の夏の広島に関連する。それにポロメリアはプルメリアで、キョウチクトウ科の植物だから、関連がないとはいえない。


ブリキのお盆に載ってごはんセットは運ばれてくる。米は肉体労働者の自分からすると半分だが、ごま油の懐かしいもやしのナムル、大好きな「リバカフェ」さんのいぶりがっこ入りを思い出させるペンネのポテサラ、しゃきしゃきのサラダ、数年ぶりに炊いた物を食べたと錯覚させる味のしみた大根と人参、キノコが香り口に入れるとタイムか何かが爽やかな汁、そして三つ葉が花開いて紫蘇と胡瓜によるマヨソースが涼感を生む豚しゃぶだ。のんびり、ゆっくり食べる。


おかわり自由を知らない自分は、米の足りない分をケーキで補うべくピオーネの焼タルトを追加する。これがとてもおいしい。コーヒーは深煎りらしく、口当たりに重みがあり、女性に人気のカフェにしては男らしい味だと思うが、ケーキの強さにバランスは合っていることに気づく。ヨーグルトやバニラを想起させるしっとりした優しい甘さの生地に、水分を残して縮んだ黒光りするピヨーネが加わり、土台のサブレ生地はがっちりとしてバターと小麦がとても香る。ふと、「コナサン」のクラフティが食べたくなった。


店内にはコーカソイドのカップルがあとから来て、聞き慣れない言葉で会話していた。アルメニア、グルジア、ルーマニア、ポルトガルは判別できないが、接続詞や抑揚でどのあたりの国か考えることはできて、スラブ系とラテン系、それにゲルマン系は似た単語と発音を含めた調子があるからなんとなくわかった気になれる。だから聞き慣れないと思う時に考えるのが、ヘブライ語だ。アラビア語に近いのかも知れないが、発声はそれほど似ているとは思えず、イスラエルで実際に話される言葉を聞いて、つかみどころがなかった。いや、もしかしたらギリシャ語かもしれないと考えながら食べ終わる。


数年前に広島へ越してきたばかり以来の「喫茶めくる」は、店員さんがとても親切で、もはや初めての店だ。ラジオで言っていたが、関東にいた時は、この日をテレビのニュースで見るだけで、ここ広島のように関連番組や催しが行われるわけではない。そんな事がふと、思い出された。

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