8月2日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで斎藤耕一監督の「海はふりむかない」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで斎藤耕一監督の「海はふりむかない」を観る。


1969年(昭和44年) 松竹(大船) 87分 カラー 35mm


監督:斎藤耕一

脚本:星川清司

撮影:小杉正雄

音楽:服部克久

出演:西郷輝彦、勝部演之、尾崎奈々、夏圭子、森次浩司、有川由紀


良い映画を作ることは難しいと思わせられた作品だった。主演の俳優による主題歌が、くどくどしく劇中に流れるのは、鈴木清順監督の「東京流れ者」を思い出させ、あの映画は日活だったが、今日は松竹で、どちらが始めて、どちらがこのような作風の影響を受けたのかはわからない。ただ、狂犬じみた活力で欲の向かう儘に動く主人公に合わせるように、忙しいカメラワークに、野暮ったさを感じるズームアウトなど、ところどころに美しさを感じられず、薄っぺらい暑苦しさばかり叫んでいるような印象を受けた。


原爆投下から数年後に広島で生まれた女性が、放射能の影響か白血病となり、20年以上経った今でも医者はその原因による病気なのか述べられず、何も究明できていないと述べるシーンや、広島で生まれたと明かした男性から手を肩に当てられた時の主人公の表情などが重要で、物語自体は、由緒ある家庭に息の詰まるのを覚える青年が香具師のようなインチク臭い仕事をする直情的な主人公で、真面目に会社勤めする合理的なエリートの兄に反感と反抗を持ち、兄が捨てた女性と、兄の結婚するであろう社長令嬢を交えてそれぞれが交差する。その描き方が、あまり面白味のない一辺倒に思えて、また、美川憲一さんや、由美かおるさんがバーで歌うシーンなども挟まり、当時はこのような演出が流行だったのかもしれないが、今の自分からすると作品を彩るよりも、盛り下げる余計な真似に思えてしまう。


それでも、広電の車両倉庫のような場所で、光の当たる広告とその奥の深い影で抱き合う男女の構図が綺麗で、野蛮とも思える男が白血病の女性の兄に結婚を申し込み、殴り合うシーンなどは心から笑わせてくれる。


全体として、この映画は短慮な主人公によりどたばたとしていて、また展開も早いのでやや味気なく思える。その中で、走る広電から見える街路の風景は、今の広島市内との比較が興味深く、広島で出会った自分よりも年上の知り合いは、こういう街の中を実際に見て育ってきたのだろうと考えるのは面白かった。


そういえば、一昨日観た映画でも、今日でも、鳩が噴水や水飲み場で飲水するシーンがあり、また、餌を与えられて群がるのもあり、これらは今の平和記念公園では見られないと気づいた。公園にいる汚らしい大量の鳩、そんな言葉を前に聞いたことがあるも、実際にいる彼らは、どれも小汚くはない。あれら、劇中にいた大量の鳩は、どこへ消えてしまったのだろう。清潔を良しとする秩序が排除したのだろうか。

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