7月27日(土) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで平和バレエ公演 レオ・ドリーブの「コッペリア」を観る。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで平和バレエ公演 レオ・ドリーブの「コッペリア」を観る。


「タランテラ」(振付:マシモ・アクリ


バレエコンサート

「くるみ割り人形」より金平糖のバリエーション:盆子原美奈

「ワルプルギスの夜」よりバリエーション:井平麻美

「海賊」よりグラン・パ・ド・ドゥ:森脇美咲、アクリ士門

「ダイアナとアクティオン」よりアクティオンのバリエーション:中村莞亮

「ドン・キホーテ」よりバジルのバリエーション:森脇秀行

「パリの炎」よりグラン・パ・ド・ドゥ:越眞里亜、森脇崇行

「サタネラ」よりグラン・パ・ド・ドゥ:下隠雪乃、伊藤充


レオ・ドリーブ:バレエ「コッペリア」

演奏:平和バレエ公演記念オーケストラ

指揮:井田勝大

芸術監督:小池恵子

演出・振付・指導:渡部きよみ

出演:藤本裕香、アクリ士門、マシモ・アクリ、上西加奈美、森田修三、石田彩、稲葉遼


この公演をたまたま知ったのはハンバーガーを食べた「Deep Dish」という店だったが、その場所以外でチラシを見かけたことはなく、仮に「ホームラン食堂」が開いていて、その店に行かなかったならば、これほどの素晴らしいバレエの舞台を見逃すところだった。


15時から始まり、終演後に18時からの映画を観に行こうと思っていたら、終わったのが18時半頃だった。それだけ中身があり、贅沢な時間だったので、広島市映像文化ライブラリーに行けないのは惜しいが、たやすくあきらめられるほどの内容があった。「タランテラ」とバレエコンサート後に休憩が入り、それから「コッペリア」全幕が始まり、第2幕の終了に2度目の休憩が入った。その時点で17時半で、舞台世界に酔いしれながら、まだ3幕があるという、とっておきのデザートを待つような状態だった。


1階8列目の左から斜めに舞台を見上げる座席で、正面から観られなかったのは残念だが、表情も動きも見分けられたので、これほどの距離でクラシックバレエを接したことのない自分は公演開始前から心が躍った。


初めてフランス料理に接して、その料理を解するのにジュレやポワレなどの言葉がわからずに窮するように、バレエの動きに関する言葉がわからないと、タンバリンを使用した「タランテラ」を観ながら思った。個人と集団がリズム良く入り混じり展開していく様子に、一人一人の技量の高さによる統一感に驚いた。観慣れた人にとってはどう映るのかと考えながら、躍動感ある全体の踊りに観とれて終わった。


バレエコンサートもそれぞれの質の高さに驚き、特に「くるみ割り人形」の盆子原美奈さん、「サタネラ」の伊藤充さん、「パリの炎」の森脇崇行さんに目がとまり、その中でも「海賊」で上半身の美しい筋肉だけでなく、高い跳躍に、早く正確な回転と力強い動きのアクリ士門さんに、各作品からの試食だけのような味わいだけで唸ってしまった。


ここまでだけでも短くなく、これから「コッペリア」が全幕始まるのかと思うと、豪華な公演だと思った。そのとおりで、実際に全幕を観終わると、チケット代が破格としか思えず、この公演に注がれた力が如何なるものかと、感謝ばかりが浮かんでいた。


舞台装置は凝っていて、上手のコッペリウスの家に、暗い森の木立を装った左右から上部を飾る前後のパネルなどは軽々しくない。休憩を挟まない第1幕から第2幕の舞台転換も短い時間にすっかり変化していて、コッペリウスの家の内部の怪し気な印象が醸されていて、舞台関係者の技量の高さを感じた。どこのバレエ団か忘れたが「コッペリア」は一度DVDで観ていて、印象が薄く、今回の演出と振付がどのように異なるのかわからないが、赤い長靴を履いた小さな子達や、ちっこいかわいい天使たちの踊りはあっただろうか……、ずいぶんと違う舞台なのだろうと、小池バレエスタジオの生徒さんをうまく絡めたこの舞台の上手さに感心した。


主役のスワニルダ役の藤本裕香さんと、フランツ役のアクリ士門さんは表情豊かな演技と踊りで、魅力と存在感ある人物を演じていて、コッペリウスのマシモ・アクリさんや、スワニルダの友人、フランツの友人も、端役のそれぞれが細かく質の高い演技をしていて、鍛え抜かれ、磨き抜かれた今回の舞台だろうと、その努力と労苦が完成度の高い物語世界だからこそ感じられた。


そして、やはり生のオーケストラで観るバレエは良いものだと、平和バレエ公演記念オーケストラの音楽が生きた舞台を飾っていた。各場面を盛り上げて伝える音色は、オーボエ、ホルン、バイオリンソロ、様々に効果をあげていて、それらが音源からのスピーカーでは生まれない一体感を味わえた。


名前の聞いたことのある小池バレエスタジオは、プロのバレエダンサーを何人も育てあげて、ローザンヌ国際バレエコンクールのファイナリストに残るダンサーが育っているのも実際にうなずけるほど、妥協のない、完成度の高い、そして親しみやすい舞台を築きあげていた。気になって、どこにあるのかと調べてみると、広島の第1スタジオの住所が十日市町にあり、第2スタジオも西十日市町にあると知り、ふと、近所にあるスーパーのユアーズへ買い物に行くと、交差点やその近くで、髪を綺麗にまとめた姿勢の良い女の子たちを繰り返し目撃していた記憶と繋がった。あの女の子たちがこの舞台にあがっていたのかと知った感動は、町田の実家の近くを汗を流して歩く格闘家をたびたび見ていて、ものすごい体格だと思っていたら、格闘家の藤本京太郎さんだったと知った時と同じような感慨だ。


オペラや演劇を観る前から、唯一好きだったのがバレエの舞台だったので、広島でこのような完成されたバレエ公演を観れた幸せはどれほどのものか。これだけの内容を半年に一度でも観れるだろうか。作る側は大変だが、観るほうは気楽なもので、ついつい適当に思った事を述べてしまう。一年後か、それとも二年後かわからないが、次が待ち遠しい。それよりも、スタジオ発表会を観に行くべきだと思った。かわいい卵たちの踊る姿は、その先々の未来を想像させてくれるから、それはそれでとても良いものだった。


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